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第23話

「いとこ同士で付き合うわけないだろ」  部屋の真ん中あたりから暖の声がした。 「えーだって、いとこ同士は結婚できるんだからアリだろ。それに紗理奈ってめっちゃスタイルいいし可愛いし」 「別に普通だろ」  暗闇の空気がどよめいた。皆の気持ちを代弁するかのように誰かが暖に尋ねた。 「紗理奈が普通とかどんだけ理想高いんだよ。暖ってどういうのがタイプなん?」  あちこちからクラスの女子たちの名前が上がる中、突然暖の声がそれらをばっさりと断ち切った。 「俺、好きな子いるから」  えっー! と、いっせいに驚きの声が上がる。  が、一番えっー! なのは琥珀だ。  誰誰誰? と部屋中がざわつく中、暖の声が響く。 「その子はめっちゃ美人で、世界一可愛い。ちょっと馬鹿だけど俺にはその子しかいない。その子しか目に入らない。ずっと前から好きなんだ」  部屋がしんと静まり返った。 「なんかすげぇな」  ボソリと誰かが言った。 「俺はまだそんなふうに人を好きになったことないかも。暖って超絶モテるのに一途なんだな。なんかいいわそれ、ちょっと感動した、俺応援するわ暖のそれ」  うんうん、と同調する声がどこからともなく上がる。  暖の気迫の告白に、その相手が誰であるのかを追求しようとする者はいなかった。  暗闇が和やかなムードに包まれ、ちらほらとどこからともなく寝息が聞こえ始めた。  皆が穏やかな眠りに落ちていく中、琥珀だけが布団の中で身体を丸くして固まっていた。  真っ暗な谷底に突き落とされたような気分だった。  ショックだった。  暖に好きな子がいることを知らなかったことが、琥珀は暖の親友なのに、こんなふうにその他大勢の一人みたいにして告白を聞かされたことが、ショックだった。  これは俺たちの血の誓いその二、秘密は作らないに違反してるんじゃないか?  怒った蜂のように激しい感情が飛び回る。  でも……。  血の誓いその三、お互いの幸せを応援する!  琥珀が暖の親友なら、誰よりも暖の恋を応援しなければならないのではないか?   あの暖があそこまで言うのだ。本気なんだ。本当に本気でその子のことが好きなんだ。 『その子しかいない、その子しか目に入らない、すっと前から好きなんだ』  得体の知れない真っ黒い何かに胸を押し潰される。  なんだか息苦しい。一生懸命息を吸い込んでいるのに肺に穴があいてしまったかのようだ。  頬に生温かいものが流れた。触れると、指先が濡れた。  知らないうちに琥珀は泣いていた。  暖に好きな子がいるのを知らなかったことはショックだったが、それ以上に暖に好きな子がいるというそのこと自体が、もっとショックだった。 『そこ子しかいない』  俺がいるのに。 『その子しか目に入らない』  俺のことなんて眼中にない? 『ずっと前から好きなんだ』  俺よりも?  いやだ、そんなのいやだ、いやだ、絶対いやだ。  無理。応援なんてできない。絶対無理。  頭の中でもう一人の琥珀が囁く。  おまえは暖と血の誓いを交わした親友だろ。親友の恋を応援できなくて親友と呼べるのか?   そもそもなんでそんなことができないんだ。暖だけに彼女ができるのが悔しいのか?   おまえはそんなにちっぽけな男なのか? 血の誓い? 男同士の友情? 笑わせるな。  頭の中の琥珀は正論すぎて、心の中でだだをこねる琥珀は太刀打ちできなかった。  頭と心がバラバラで、眠れなかった。  ぐるぐるぐるぐる、いろんなことを考え、心は千々に乱れ、明け方やっと浅い眠りについたかと思ったら、起きた時熱が出ていた。

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