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第22話
まだ夏を色濃く残した九月が去り、カレンダーがめくられると、いよいよ次の季節の到来だ。
高二年の秋といえば、高校生活最大級と言っていいビックイベントがある。それは、
The修学旅行。
行き先はズバリ定番の京都だ。
生徒たちの間では海外がいいだの、沖縄がいいだの声が上がっていたが、今年もやはり京都になった。
修学旅行の班決めで、琥珀と暖は同じ班になった。全員で五人。琥珀と暖以外は女子が三人で、その中には紗理奈がいた。
それでも最近ずっとラグビーに暖を取られていた琥珀は、これでやっと暖と一緒にいられると修学旅行が持ち遠しかった。
修学旅行前日の夜、琥珀は興奮と期待でなかなか寝つけなかった。
がしかし、バスの中での暖の隣の席は紗理奈が独占し、京都についてからもずっと紗理奈は暖のそばから離れなかった。
極めつけ、琥珀は班の他の女子からこう釘を刺された。
「暖と紗理奈の邪魔をしちゃダメだからね」
邪魔?
琥珀は暖の親友なのに、女の子がいると琥珀は邪魔者になるのか?
暖が紗理奈と一緒じゃない時といったらあとはもうトイレに行く時か入浴時、そして夜寝る時ぐらいしかなかった。
せっかく暖と修学旅行の思い出をたくさん作ろうと思っていたのに、琥珀の心の思い出アルバムには一枚も暖の写真を貼れないでいた。
トイレはともかく、湯船に浸かりながら暖と裸の付き合いがしたいと意気込んでいた琥珀だったが、それも見事に空振りしてしまった。
暖はカラスの行水で、琥珀が髪や身体を洗っている間に大浴場からいなくなってしまっていた。
夜は夜で、男子部屋は大騒ぎだ。
修学旅行の夜といったらお決まりは枕投げ。琥珀たちの部屋には暖と暖の他にラグビー部員が二人いたため、枕投げがラグビースタイルに発展し、大盛り上がりになった。
運動音痴の琥珀がそんな危険な枕投げに参加できるはずもなく、琥珀はずっと蚊帳の外で枕を取り合うクラスメイトたちを眺めていた。
枕投げで暖はヒーローだった。
そしてヒーローの布団の周りは他の男子たちに囲まれてしまい、枕投げで戦力外だった琥珀の布団は出入り口に近い部屋の一番端っこだった。
消灯時間になってもおとなしく寝ないのはこちらもお決まり事で、あちこちからヒソヒソ話や忍び笑いが聞こえてくる。
「なぁなぁ、暖と紗理奈ってどうなってんの?」
誰かが暖にそう尋ねたことで、バラバラだったヒソヒソ話が一つにまとまる。
「付き合ってんだろ? もうヤッた?」
どこからか声が飛んできて、真っ暗なのに部屋の空気が一瞬であらぬ方向に色づいたのが分かった。
琥珀は皆と同じように息を潜めて暖の返事を待った。
それは琥珀もずっと気になっていたことだった。
暖は紗理奈と付き合っているのだろうか? 今は付き合っていなくても、付き合うことになるのだろうか? 暖は紗理奈のことをどう思っているのだろう?
心臓がトクトク駆け足になる。
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