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第30話
暖が琥珀の家に行くと、琥珀の姉たちはみな驚いて、三人は同時に同じセリフを吐いた。
「今年は暖君の家じゃないの?」
聞くところによると琥珀は学校からも帰ってきていないらしい。
「てっきり、帰りにそのまま暖君の家に行ったのかと思った」
琥珀の姉たちは戸惑いと不安の入り混じった表情を浮かべている。
学校が終わったのは正午過ぎで、今は午後三時を回ったところだった。
「ちょっと探してきます」
暖は雪道を走りながら琥珀に電話をかけた。しかし呼び出し音が鳴り続けるだけだった。
数日前、琥珀に絶交だと言われたが、暖はイヴにかこつけて仲直りをするつもりだった。
琥珀が最近女子と一緒にいることが多いのに嫉妬してしまった。
あんな酷いことを言えば琥珀が怒るのは当たり前だった。けれど血の誓いを解消したい、琥珀の親友を止めたい、その気持ちは本心でもあった。
もう少し言い方があったのだろうが、自分もいっぱいいっぱいだった。一メートル以上近づくな、などと馬鹿なことを琥珀に強いるほど、琥珀と親友でいることが苦しくてならなかった。
今日、琥珀が行きそうな所といったら青龍山しかない。
クリスマスカラーの灯台の灯りを眺めるのが二人の恒例だった。
標高四百メートルにも満たないといっても、山は山だ。登るにつれ雪がひどくなっていくように感じた。
すれ違う車はほとんどなく、昔から慣れ親しんだ山とはいえ、どことなく心細くなってくる。琥珀はこんな雪の中を一人で山を登って行ったのだろうか。
「琥珀―!」
大声で琥珀の名を呼んだ。
が、その声は山林に響くどころか、沈黙した雪にあっと言う間に吸い込まれてしまった。
山頂近くの眺めのいい場所に琥珀の姿はなかった。山の麓からここまでは一本道だ。
琥珀とすれ違わなかったということは、琥珀はここには来なかったのだろうか?
灯台の灯りは雪に霞んでほとんど見えなかった。
何気に足元に視線をやると、暖の立つ場所から下方に向かって積もった雪が乱れているのが分かった。
なだらかとはいえ、そこは崖だった。普段なら踏み間違うことはないが、雪で道路との境界線がすっかり分からなくなっていた。
数メートル落ちたところに青い何かが見えた。
目を凝らすと、それは傘だった。琥珀の傘の色は青色だった。
全身から血の気が引いた。
「琥珀―! 琥珀―!」
狂ったように叫んだ。
耳を澄まして返答を待つ。自分の心臓の音が耳元でバクバクうるさい。
琥珀に何かあったらと思うと、気が変になりそうになった。
ずっと下方で、声が聞こえた。
暖は迷わず声のした方に向かって駆け下りた。
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