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突然
ある夏の日の事だった。太陽がアスファルトを焦がす中、二人はいつものように庭木や草に水を与えていた。ここはある人の屋敷の庭。ジョウロから落される水は透き通っていて太陽とにらめっこしている草花の生きる糧になっていた。
「今日は熱いですね」
汗をぬぐいながら一人の青年が口を開いた。彼は名を御子柴ケイ と言って今年から入ってきた新しい使用人だ。鹿児島県で農業が盛んな地域で育ったという。それなりに草木の生態や植生は詳しい。
「そうだな。早めに切り上げて中で休憩するか」
「はい、そうしましょう」
もう一人の青年は向井碧 と言い、男性にしては珍しく、腰まで届く長い髪を一つに束ね、中性的な顔をしている。入社三か月目の御子柴にとって碧は今のような何気ないひと時でさえ、安心感を与えてくれる。碧はいつも優しく言葉を交わしてくれて、日々の会話に花を咲かせてくれるような話し方をする。それに伴うように普段の立ち振る舞いは美しく、優雅で。まるで天使とも形容できる人だ。
ドサッ
そんな人が突然何の前触れもなく倒れた。
「碧さん?!」
御子柴は急いで駆け寄った。碧が倒れるその瞬間、御子柴には時の流れが遅く感じた。まるでスローモーションで撮った映像のように、ゆっくりと。
「碧さん?しっかりしてください!!碧さん!!」
御子柴は声を荒げた。普段は取り乱す事さえ珍しいというのに。
ひとまず日の下は危ない。御子柴は碧を担ぎ、屋内へと碧を動かした。冷房こそついていなかったが、太陽が当たらない分、幾分かはマシだった。しかし体を冷やさない事には始まらないので急いで冷房をつける。
「取り敢えず、塩水……」
田舎であっても都会であっても日光とは等しく降り注がれるもので、太陽の当たる面積の違いこそあるものの、基本的に熱中症になるシステムは一緒だ。浅く呼吸をする碧を横目に入れながら御子柴はてきぱきと塩水を作った。
「氷取ってきた方がいいかも」
塩水を作り終えると冷房が効き始めた。この間、碧は何かに魘されているような感覚になった。
「碧さん、ちょっと起こしますよ」
「うぅ……」
「水、飲めますか?」
「……水?あれ、なんでここ……仕事終わってな……」
「いいから!これ飲んで下さい」
ぽわぽわする頭を必死に動かすが、自分がついさっきまで何をしていたのか全く記憶にない。むしろ考え事をしようとするたびに後頭部がズキズキと痛む。言われるがままに御子柴の差し出した飲み物に口をつける。
「なにこれ……」
「塩水です。ちょっと何か冷やすもの取ってくるのでここで待っててください」
御子柴に支えられるがままに少しずつコップの中の水を飲んでいく。御子柴は碧が自分で飲めるようになったのを確認してから席を立った。
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