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やすらぎ

 昼間倒れた日の夜、碧はひどく魘されていた。低すぎるぐらいの体温が日中、急激に上がったことが原因だろう。最後まで気を抜けないというのもあって御子柴は碧の部屋で看病をすることにした。 「……やめて、おとうさん、やめ、いれないで……」 「碧、さん?」 「なん、で?や、やだ、離して…!」  部屋に入ると碧はぽつり、ぽつりと寝言をもらしていた。しかしその顔はひどく青白くて、昼間の比ではなかった。 「碧さん!!」 「………?!みこしば?なんで?!」  少し強めに声をかけると怯えた目でこちらを見てくる。目の端には涙の雫があった。譫言の内容から察するに彼の父親と勘違いしたのだろう。小さく組んだ手は震えていて、血液が行き届いていない。  御子柴は碧が昼間魘されていてひどく心配だから、という旨を碧に話した。今日のうちは碧の部屋で過ごすことにした。家主の上岡弓弦(かみおかゆずる)にはもう話をつけてある。事の経緯に納得した碧は申し訳なさそうに肩を落とす。 「迷惑をかけて、ごめん」 「別に。迷惑とは思ってないです。ただ、心配なだけです」 「今度からは、ちゃんとするから……」  俯く碧に御子柴はないかできないかと考えた。しかし、彼にできることは碧をそっと寄り添うぐらいだ。 「今日はもう寝てください。何かあっても俺はずっとそばにいます」 「でもそれじゃ御子柴が……」 「気にしないでください。碧さんが眠れるまで付き合いますよ」 「……こんな頼りない人間で、ごめん」  碧は時々自分をひどく卑下することがある。御子柴には碧がその行為をするたびに心の中で”何か”が引っかかるのを感じた。  碧が魘されて起きた時間から数十分たった。安定した呼吸で魘されている形跡もない。先ほどまでの青白さはだんだんと薄れて、彼本来の美しい顔がそこにあった。今は目を閉じているせいで昼間よりは幼く見える。  やっと眠ってくれた、という安心感と、もし自分の意識が落ちたときに彼が苦しくなってしまったら、と思ってしまい、御子柴の心がざわついた。

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