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第1話

 暑い。今日で何日目の熱帯夜だろう。  冷房が苦手な芳樹は、窓を開けて寝ていた。 ――チリン  生ぬるい風が部屋に入り込むたび、甲高い風鈴の音がマンションに響き渡った。四日前に引っ越してきた隣のベランダから聞こえてくるようだ。 「エアコンつけるしかないかな」  体中の水分が沸騰しそうな暑さに目を覚まし、誰もいない部屋で芳樹は一人ごちる。  暑がりの新垣と付き合っていた時は、朝目覚めて冬かと間違えるほど冷房がきいていた。  リモコンの取り合いも、今となっては懐かしい。 ――チリン      チリン  また風鈴が鳴った。  コンクリートや空気に、熱と湿気を溜めこんだ都会に、風鈴の音は似合わない。  涼しげに感じるのは、土や草の香りに囲まれた家屋限定だ。  音というものは、いったん気になりだすと耳から離れない。  風鈴は寝つけぬ芳樹をさらに苛立たせた。 「うるさい……」  パジャマ代わりのランニングシャツさえ脱ぎ捨てて呟く。  ふと、三年前を思い出し苦笑した。

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