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第2話
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両親が沖縄生まれの新垣は、色黒で眉は濃く大きな目をしていた。
嫌みなほどに高い身長、見た目も性格も芳樹とは真逆だった。
芳樹が行き付けの居酒屋で、新垣はバイトをしていた。
五つも歳の離れたサラリーマンと大学二年、普通なら客と店員で終わり、それ以上の関係に発展するはずもなかった。
「芳樹さん、今度一緒に飲みに行きましょうよ」
オーダーを聞き終えた新垣が誘いの言葉を口にした。
あまりに自然な誘い方に芳樹は思わずうなづきそうになった。
新垣が外で会おうなどと言うのは初めてだ。
時々、女性に誘われているのを見かけることもあったが、新垣はやんわりと断っていた。
そんな彼が年も職業も違う男を飲みに誘ってくるとは思いもしなかった。
「俺、あんまり飲めないけど」
芳樹の言葉に新垣は豪快に笑い出した。
「知ってます。芳樹さんのオーダー、俺が受けているんですよ。いつも生ビール半分でトロンとしちゃうじゃないですか」
食事メニューの豊富さが気に入って芳樹はここへ来ている。
通い始めてから一年以上経つが、飽きることはない。
酒の注文は一杯目のビールのみで、後はもっぱら食べ物を頼む。
「芳樹さんて、痩せの大食いですよね。どこに消えちゃうですか」
「ブラックホール……って、よく言われる」
目を揺らし戸惑った新垣の表情に、芳樹は滑ったギャグを人のせいにしてみる。
芳樹の気まずさに気を使ったのか、少しずれて新垣は微笑んだ。
彼の細やかな気づかいは、人とのかかわりが苦手な芳樹にはとてもありがたかった。
これではどちらが年上だかわからない。芳樹は苦笑いをした。
「それで、芳樹さん、予定ですけど」
初めはお客さんと呼ばれたが、三回目からは名字になり、名前に変わるまでにさほど時間はかからなかった。
元々人見知りで無口な芳樹とは違い、人懐っこい新垣だ。他の客達ともすぐに打ち解ける。
だが、店員としての立場をわきまえ、なれ合いのような接客はしない。
そんな新垣からほかの客とは違い、名前で呼ばれるという優越感が妙にくすぐったい。
「あさって、俺、バイト休みなんです。時間は芳樹さんの仕事が終わった後でいいですか? 遅れるようだったら電話くれればいいですから。携帯貸してください」
言われるままに差し出した芳樹のスマホに新垣は番号とアドレスを打ち込んでゆく。
「新垣君は女の子を誘うときも、そんなふうなのか」
質問の意味がわからない、といったようすで新垣は見つめてくる。
しっかり目線を合わせる真っ直ぐさに、芳樹は好感を持っていた。
たが今は新垣の視線が心の内まで踏み込んでくるようで、芳樹は料理に目を落とした。
「そうやって、どんどん話を進められたら、女の子も断らないだろうなって。それに、新垣君は男前だし」
「それって、あさってでOKってことですよね」
普段は大きい瞳が一瞬にして細くなる。
こんなふうに心底嬉しそうな顔をされると、どんな頼み事でも聞いてやろうという気になってしまう。
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