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第7話

     *****  初めての屋外デートからしばらくして、新垣になにも言わず芳樹は引っ越した。  ほんの数カ月の疑似恋愛。  それ以来、新垣には会っていない。  新垣はまだ、あの桃色の風鈴を持っているのだろうか。  自分から離れておきながら、新垣が芳樹との思い出を捨てずにいてくれることを望んでいる。 ――チリン    チリン     チリン、チリン、チリン!  隣のベランダの風鈴が激しく鳴っている。  さっきから室内の空気は動いていない。  だるい身体を起こし、ランニングを着るとベランダへ出た。  芳樹のベランダで風鈴が激しく揺れている。  隣とのパーテーション横から侵入している日に焼けた逞しい手に、風鈴は握られていた。 「新垣?」  まさかと思いながら呟いた。  ベランダの手摺を乗り出すように、新垣が顔を出した。 「どうして、ここに……」 「捜したんだ、芳樹のこと」  新垣の言葉ひとつで、心がいっぱいに埋まった。 ――きっと俺は、新垣ではなく自分の気持ちが信じられなかったんだ  ベランダの手摺を乗り出して、芳樹は新垣にキスをする。新垣は大きな目を丸くした。 「俺のこと嫌いになって逃げたんじゃないの?」 「そう思うなら、なぜここへ来た」 「就職して少しは大人になった俺を認めてもらうため」  さっきまで自信無さそうに揺らいでいた目が、しっかりと芳樹に向けられる。  真っ直ぐな瞳が愛してる、と語っている。  開きかけた新垣の唇に、芳樹はしーっと指を立てた。  今、言葉はいらない。  もう一度、キスをした。     終り

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