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第23話 ひよっ子、考察する★

「……ああ、ここが腫れているのか。処理しよう」  しかしレックスは意外にも冷静な顔で、そこを撫でた。過剰に反応したヤンは、細く悲鳴を上げて口を塞ぐ。  するとレックスはヤンの身体を一度抱き上げ、ソファーの上に座らせた。そしてヤンの足の間に膝をつく。一体、彼は何をしようというのだろうか。 「あ、あの、レックス様……ほんとに、しばらくすれば収まりますから……っ」  レックスに咎められなかったことが意外すぎて、ヤンは少しの間呆然としてしまっていた。だから、処理しようという彼の言葉もスルーしてしまい、ヤンの下穿きが寛げられるのを眺めてしまう。ハッとして再び止めに入るけれど、レックスはヤンのはち切れそうな怒張を取り出してしまった。 「確かに痛そうだな」 「あっ? ……うそ……っ」  しかもレックスは、何の躊躇いもなくそれを口に含んだのだ。  ヤンはレックスの口内の熱さに、意識が一瞬飛びそうになった。何とか堪えてレックスの髪を掴み離そうとするけれど、彼はヤンを咥えたまま一瞥しただけだ。そして唇と舌で丁寧に裏筋を撫でられ、掠れた高い声が上がる。 「れ、レックス様っ……やめ……っ!」  ゾクゾクゾク、と背筋に何かが走った。続いて先端からとろとろと先走りが溢れるのを感じて、ヤンは恥ずかしさで涙目になる。  こんなこと、自分がすることはあっても、されたことはなかった。客が満足することが第一で、仕事が終わったあとに、自分で処理することがザラだったのに。  ヤンはレックスの口淫から逃れようと、片足をソファーに乗せて身体を引こうとする。けれどレックスはしっかりとヤンの腰を掴んでいて、すぐに戻された。その力強さと手の大きさを意識してしまい、さらに熱が上がる。 「あ……っ、ふ……、ぅ……!」  どうしても漏れてしまう声がさらに高くなった。下から聞こえる水っぽい音と、溜まっていく熱に耐えられなくて、ヤンは背中を反らす。 (熱い……っ)  下半身の熱と、レックスの口内の熱が溶けそうなほど熱い。すっかり潤んだ視界でレックスを見ると、ヤンの熱を丁寧に舐め上げるレックスが視界に入った。そのビジュアルの卑猥さに、思考が霞む。 「レックス様……っ、そんなこと……!」 「出せば収まる。言ったろう、これは処理だ」  頭がクラクラした。それがレックスの言葉のせいなのか、下半身の爆発の予兆なのか、もはやヤンには区別がつかない。ソファーの座面に爪を立てると、レックスがヤンを吸い上げながら唇で扱いてきた。柔らかい唇で敏感な先端を擦られ、ぐっと息を詰める。 「あっ、あっ! ダメですダメです!」 「出そうか? いいぞ」  そう言って再びヤンを咥えるレックスは、さらにヤンを追い立てた。ヤンは泣きそうな声を上げながら、首をブンブンと振る。このままでは本当に出てしまう、とレックスの頭を掴んで離そうとした。けれどビクともしない。 「やだ……っ、も、……いくから……っ、出るから離して、くださ……っ!」  ヤンの太ももが震え出す。それを止めようと俯いた口から雫が糸を引いて垂れた。もうヤンの中の熱は、今か今かと開放されるのを待っている。  けれど、ほんの少しだけ残った理性が、ヤンを思い留まらせた。  ――この行為が処理だなんて言って欲しくない。こんなことをするなら、嘘でも愛してると言って欲しかった。自分は、本当の家族に捨てられた存在なのだから。  ヤンは腰を押さえるレックスの手を掴む。この大きな手が、ヤンを優しく包む熱が、自分だけに向けられたものだったらいいのに――。  そう思った瞬間、ヤンの熱が弾けた。掠れた悲鳴を上げ、飛び出す精の快感によって腰が跳ねる。 「あ……っ、んん……っ!」  ジュル、とレックスがヤンを吸い上げた。キュッと窄まった口内はヤンの残滓を容赦なく搾り取り、ヤンを深い快楽に誘う。  やっと放出が終わり脱力感に襲われた時には、ヤンは指一本動かせないほど疲れてしまった。  はーっ、はーっ、と大きく呼吸をしながらレックスを見ると、彼は手の甲で口を拭う。 「……腫れはじきに引くだろう」  そう言って、レックスは丁寧にヤンの下穿きを直す。頭がボーッとしていたヤンは、彼の口に出したものの行方を考える余裕もなく、されるがまま、再びシュラフに入らされた。会話もなく、事務的に身だしなみを整えられ、「おやすみ」とレックスはお辞儀をして去っていく。  そこに情などないような態度だ。 「……」  ヤンは今度は別の意味で汗をかいた。そして考える。今のは何だったのだろう、と。  レックスは処理だと言った。ヤンもこれまでの経験から、情などなくてもそういう行為ができることは知っている。  なのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろう?  あの真面目な彼が、感情抜きでこういう行為ができると知りたくなかったから? それとも、婚約者がいながら、彼女以外とこういう行為をすることが信じられない?  ――ヤンに、なんの感情も持たず触れたことがショックだった?  ストン、と落ちてきたのはそんな考えだ。でもなぜだろう? 自分は、レックスに何かしらの感情を持って触れて欲しかったのだろうか? でも、それはどんな感情? 今しがた、自分だけに向けられた情があればいいのに、と思ったのは、レックスに何かを期待しているのだろうか?  ヤンは物心ついた頃から、あの村にいた。大きくなるにつれて、あそこは身寄りがいないひとが行き着く場所だと知る。  同じような境遇の『兄弟』に囲まれて、『家族』のように過ごしてきた。けれど、ずっと心の中に穴が空いていたような気がする。最近はそれを、レックスが埋めてくれたような気がしていたのだ。  ちゃんと自分を『商品』としてではなく、成鳥の『ヤン』として、レックスは真摯に向き合ってくれていた。もちろん、ハリアもアンセルもそうだけれど、レックスは二人とは違うと感じていた。  初めてできた、レンシス以外の主人。レックスはレンシスとはまったく違う。見た目以外を褒められたのも初めてで、手合わせした時に褒められたことは、ヤンにとって特別なことだった。 「とくべつ……」  そう、レックスはヤンにとって特別なひとだ。主人であり師であり、恩人でもある。感謝はしてもし切れないほどのひとで、自分より遥か上のひと。だからクリスタが現れた時、特別なひとには特別なひとがお似合いなのだ、と納得した。 (あれ?)  今の思考からすると、まるで自分がもう少しいい身分だったら、釣り合うとでも言いたげな話ではないか。そんなおこがましい思考に、いつの間になっていたのだろう? 「と、とにかく。僕はまた主人の手を煩わせてしまったのだから。それは間違いない事実だから……」  ヤンはそう呟いて、明日また謝らなきゃ、と目を閉じた。

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