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第36話 ひよっ子、食む★

 身体の奥に入ってきた指は、ヤンの意識を容易く溶かす。さすがに久しぶりだったので、ほぐす過程が必要だったけれど、それでもレックスは痛いこと、嫌なことは一切してこない。  これが客なら、と考えかけて、ヤンは思考を止める。客と比べてレックスからの思いやりを感じるなんて、失礼じゃないかと思ったからだ。 「レックス様……っ」  彼のしっかりした指が、ヤンの中、欲が溢れる場所に触れる。意識が遠のきそうになり首を反らすと、顎に吸いつかれた。 「痛くはないか?」 「だいじょう……ぶです、――気持ちいい……っ」  小さく声を上げながら、ヤンは受け入れることに集中する。このあとに来るであろう、燃えるように熱いレックスの欲を想像しながら。 「あっ、――ああ……っ、ん……」  くちくちと、後ろから水っぽい音がする。ヤンの腰は奇妙にくねり、時折硬直したように止まって震えていた。  ずいぶん反応がいいな、と自分でも思った。こんなに感じるまでになるのは、久しぶりだと思った途端、思考が勝手に霞み始める。  何だ? と思う間もなく、再びそれは訪れた。戸惑う間にもその感覚は次第に短くなり、それと同時に、何かがせり上ってくる感覚に戸惑った。  何これ、こんな感覚知らない、とヤンはその戸惑いと不安にレックスを強く抱きしめる。呼吸もままならなくなり、赤く染った唇から早く浅く、吐息が出ていた。 「あっ、レックス様……っ、何これ何か変です……っ」  息が十分に吸えないので、掠れた小さな声で訴える。レックスも、吐息混じりの返事をしていて、顔や首から感じる体温はとても熱かった。あの冷静なレックスが、自分に触れて興奮している。それが何よりも嬉しい。  すると、するりと手がヤンの服の中に入ってきた。撫でられる刺激すら今のヤンには強くて、唇を噛み締めて耐える。  何だこれ、こんなの知らない。本当に知らない。後ろでいきそうになるなんて、今までなかったのに!  レックスの手が、ヤンの胸に触れた。固くしこった先を弱く摘まれ、せり上ってきていた何かが弾ける。 「――……ッ!!」  今までにないくらい、全身が震えた。後ろは指を咥えたまま締め付け、奥へと(いざな)う。 「ぅあ……ッ! ああ……ッ!」  そして覚えがある感覚にヤンは身悶えた。膝が笑い太ももが震え、深い快楽に落ちる。どこまでも落ちそうな感覚に恐怖を覚えるが、抜け出せないほどそれは甘くて(はげ)しい。 「――ぅ……ッ」  ふうふうと、レックスに凭れて身体の硬直が解けた。指を抜かれ、ズルズルとその場に座り込むと、彼の服に体液がベッタリとついていることに気付く。 「す、すみません……」  まさかこんなことになるとは思わず、ヤンはそれを拭い取ろうとした。しかしレックスに止められ、服を脱いだ彼を呆然と眺めてしまう。 「……記念に」 「……っ! ちょっと待ってくださいっ!」  真顔で呟いたレックスの言葉が聞き捨てならなくて、ヤンは声を上げた。シャツを丸めたレックスはベッドから降りると、チェストに大事にしまおうとしているではないか。 「さ、さすがにそれは洗ってくださいっ! 恥ずかしすぎますっ!」 「なぜだ? 城に来た時のお前の服も取ってあるぞ」  そう言ってレックスが出したのは、ボロボロの布切れ――確かにここに来て、着替えさせられた時に脱いだ服だ。 「ど、どどどうしてそんなもの……!」 「そんなもの? かわいいヤンが着ていた服だ。代わりに俺の服をあげただろう? 結果ブカブカで着られなかったが。とてもかわいかった」  思えばあの時から求愛行動が止められなくなっていたな、と真面目に言うレックス。本能として、気に入った相手に贈り物を渡すのは分かるけれど……。それでは、本当に最初からレックスはヤンを気に入っていた訳で。 「……もしかして、シュラフをくれたのもハンカチをくれたのも、求愛行動だった……んですか?」 「……そうなるな」  レックスの平静な返事に、ヤンは脳みそが爆発するかと思った。知らない間に貢がれていたのに、気付かなかった自分の鈍さが恐ろしい。確かに、今ならレースがついた、かわいらしいハンカチは、レックスの趣味だと納得できる。  結局しれっとチェストに服をしまったレックスは、またいつもの表情でお辞儀をした。 「お前がかわいい。お前なら、俺の趣味を理解してくれると思った」 「……まぁ、ビックリはしましたけど……」 「周りに知られると、引かれるからな」 「……」  ヤンは何も返せない。確かに強面仏頂面の騎士団長が、実はかわいいもの好きで、ぬいぐるみに囲まれた部屋で過ごしているなどと知られたら、大多数は引きそうだ。 「……自分でも、かわいいとは対極にいる自覚はある」  ヤンは頷く。見た目だけならレックスはかっこいいの部類に入るし、騎士団長という力強さの象徴のような役職にいれば、なおさらだろう。  ベッドに戻ってきたレックスは、ヤンの身体を軽々と持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。そしてヤンの服の中に手を滑らせ、丁寧に脱がせてくれる。 「やっぱりかわいい……」 「あ、あの、……僕はレックス様みたいにかっこよくなりたかった、です」  ちゅ、と薄い腹にキスをされ、息を詰めた。そのまま肌の上を舌が這い、落ち着きかけていた炎がまた大きくなっていく。 「ヤン」  優しく引き寄せられ、胸に吸い付かれた。身体をビクつかせ声を上げると、レックスはその位置からヤンを見上げる。 「お前の長所を活かせばいい。……ああうん、ずっとこれを言いたかったんだ」 「――あ……ッ!」  お前は強くなる要素をたくさん持っている、とそこをいじめながら、レックスは言った。 「お前は俺にはなれない。けど、唯一無二の存在になれる。アンセルとも、ハリア様とも違う強さを持っている」  胸を這っていた舌が肌を辿って唇に辿り着く。ヤンは身体を震わせながら、その不器用に言葉を紡ぐレックスの唇を食んだ。

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