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⑥
「誰だ、お前…」
普段は優しくて、怒ることなんてないのに。
オレの前で庇うように立つ智久さんの表情は、冷たく和樹へと注がれる。
なまじガタイの良い智久さんに、睨まれたもんだから。和樹は青い顔で肩をすくませ、固まってしまった。
「カズキ…」
なんとなく察した智久さんが、「元カレか…」と低い声で呟く。
その表情はなんだか怒ってるみたい…。
不安に駆られたオレは思わず肩を震わせて。
無意識に伸ばした手が、智久さんのコートを握り締めていた。
そんなオレを、智久さんは一瞬だけ振り返る。
「今更…何しに来たんだ?」
あくまで感情を抑え告げる智久さんは。
和樹に対し、酷く冷淡な口調で問い質す。
突然現れた第三者に、和樹は戸惑いを露にしたけど…。こっちも何かを察したのか、ちらりとオレに視線を寄越した。
「雪緒…この人、は…」
「…この人は────」
察してるはずだろうに、受け入れ難いのか。
和樹が直接オレへと答えを求めてきて。
オレはまっすぐ目を見て、答えようと口を開くけど…
「恋人だ。」
「え…」
先に智久さんが宣言してしまった。
その声音にも表情にも、迷いなんか微塵もなくって。
さっきまで抱いてたオレの不安は、今の台詞で一瞬にして…全て吹き飛ばされてた。
「ゆき、」
「恋人だっつってんだろ。」
困惑する和樹が、縋るようオレを見るけど。
智久さんが、ぴしゃりと一蹴して。
不意討ちとはいえ、思い切り投げ飛ばされちゃったからか…。敵意を剥き出す智久さんに対し、和樹は怯えるよう、更に縮こまってしまう。
「この人の、智久さんの、いう通りだよ…和樹。」
なんだか可哀想になって、オレからも静かに答えれば。和樹はあからさま動揺し、項垂れた。
「そん…だったら、なんでお前は、ここにっ…」
「…偶然、だよ。」
そう、偶然。
オレと和樹が同棲してたアパートの部屋に、智久さんがたまたま住んでただけで。
彼に出会わなければ、オレは今も未練を抱えたまま。ずっとウジウジしてたかもしんないけども。
「オレが好きなのは、智久さんだよ…」
ごめんって…ホントは謝るべきじゃないかもしんないけど。和樹をここまで追い詰めてしまった責任は、オレにもあると思うから…。
「そん、な…」
全ては早とちりだった事を悟り、和樹は茫然として言葉を失う。何か言わなきゃと、オレが頭を巡らせてると…
「けど俺は、お前のことがっ…」
やっぱり忘れられないとか、和樹は訴え掛けてきて。よりを戻したいと、泣きそうな顔で告げるのだけど。
「それは…」
ムリだよって、オレには大事な人がいるんだよって。きっぱりはっきり伝えようとしたら。
「やらねぇよ。」
再度、智久さんに先を越され…
「お前には絶対やらねぇ、コイツは俺のだからな。」
告げた瞬間、腕の中にオレを収めて。
その腕が台詞を物語り…誇示するように。キツくキツく抱き寄せられた。
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