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今日の呼び出しは夕方。北の方での『荷物』の受け渡しは夜の21時と事前に聞いていたのに、いくらなんでも早すぎるだろ。事務所の戸を開けると、伝令係が洋服を持って立っていた。 「え?なに?」 「いらっしゃい。これ、今日の仕事着。」 「仕事着?俺はともかく、ヒロはいつものスーツだけど。その量、明らかに二人分ですよね?」 スタスタとこっちへ歩いてくる。ヒロが俺の前に立って、服を受け取る。 「ハヤトが小さい方、ヒロユキは大きい方ね。」 「はぁ?!その言い方、止めてください!」 「ハヤトは170無いし、ヒロユキは180以上あるでしょ。20センチくらい違うんじゃない?」 「わざわざ、そういう事言わなくていいから!」 正確には18センチ差だ。俺は不名誉ながら168だし、ヒロは186ある。会社で受けたって言ってた健康診断の紙に書いてあった。ヒロがデカいから、俺の小ささが際立ってる気がする。 「ってか、何これ。」 「何これって?休日のパパ感出ていいでしょ。」 「パパって何?」 「ヒロユキはこれも。」 ヒロが嫌そうに受け取ったのは、コンタクトレンズの入ったケースと鏡。 「えー?なんで、ヒロだけ?」 「その水色の目じゃ目立つでしょ。度の入ってないカラコンよ。」 「俺も白とか青とか入れてみたーい。」 「だから、目立つなって言ってんの!」 それにしたって、着替えて行く仕事なんて初めてだ。 「今回の『荷物』って何なの?」 「何って、人質よ。」 「……それって、にんげん?」 「当たり前でしょ。小学生の男の子。大人しい子らしいから二人でも大丈夫よ。拉致した組織から、解放場所までの運搬。解放は明日の昼になるから、今晩はホテルに泊まりなさい。」 「ホテル?!」 「大丈夫。こちら側で経営してるホテルだから、一般人は居ないわ。あんた達の家じゃ身元がバレるでしょ。」 「そうじゃなくて!泊まりとか聞いてないんだけど。」 「言ってないから、当たり前じゃない。防弾の車もこっちで用意したから。運転席と後部座席の間のカーテンはしっかり閉めて。後部座席は中から外は見えないけど、外から中は見えるフィルムだから、態度には気をつけなさいよ。ちゃんとチャイルドシートに乗せなさい。」 「はぁ?何、そのめんどくさい乗り物。」 「あんた、警察に捕まりたいの?」 「……それはちょっと。」 「だったら言う通りにしなさい。移動中はマスクも付けてなさいよ。子供にバレて通報されたら面倒でしょ。」 「えー、やだな。息苦しいし。」 バサリと音がして、ヒロが立ち上がって服を広げている。丸首の薄茶色のセーターと黒のジーンズ。 「ヒロユキ、中のYシャツはそのままでいいわ。」 「ズボンもあんまり変わんなくない?」 「スラックスとジーンズは全然違うわよ!」 俺も諦めて、服を広げる。青いジーンズに、茶色いマウンテンパーカー、黒のタートルネック。 「はぁ?!タートルネックとか有り得ないんですけど!」 「なにが?普通でしょ?」 「俺は、首の詰まった格好が一番嫌いなの!」 冬の寒い日だって、出来るだけ襟元の詰まらない格好を選んでいるのに。 「あんた、首にタトゥー入ってるでしょ。見られたら一発でバレるわよ。」 「やだやだやだ!絶対嫌だ!」 「あれこれうるさい!仕事請けるって言ったのあんたでしょ!」 「ヒロもなんか言ってよ!」 すっかり着替え終わったヒロを見る。黒い瞳になったヒロは、俺の知らない人みたいだ。 「……仕事請けたのはハヤトだな。」 「味方しろよ!!」

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