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「ふぁぁあ。」
欠伸が出た。隣でコタがつられて欠伸をする。ホテルじゃ気は休まらなかったし、昼ごはんを食べたばっかりだ。コンビニの駐車場を出て、しばらく行った所で組織に指定されたコインパーキングに入ったらしく、車が止まる。すっかり慣れた動作でコタを椅子から降ろす。
「俺は後から行くから。気をつけろよ。」
「うん。分かった。」
ヒロと別れ、コタと手を繋ぎ、事前に言われた道を通って引渡し場所へ向かう。監視カメラや人の目に付かないルートなので、ぐにゃぐにゃと入り組んでいる。細い路地を出ると、約束の公園につく。公園の広場の時計は13:55を示していた。
「コタ、あそこに時計が立ってるだろ?」
「うん。」
「向かいのあのベンチに座ったら時計が見えるから、2時になったら、あっちの入口にある交番に行きな。分かった?」
「うん、分かった。」
俺はしゃがみこんで、コタと目を合わせる。
「公園の中は交番から見えるから、俺は公園には入らない。ベンチまで気をつけて行くんだぞ。何かあったら大声で叫べ。お巡りさんが助けてくれる。」
「分かった。」
「俺らの事は誰にも話すなよ?警察に話したら、俺たちの組織が、お前も両親も殺しに行くからな。」
「うん。大丈夫。」
俺を見たコタがニコッと笑う。こいつ、かわいいんだよな。離れるのが少し寂しい。
「……じゃあ、まぁ、元気でな。」
「うん。バイバイ。」
コタが小さく手を振る。俺は背中を押してやった。
「何かあったら大きな声出すんだぞ!」
「うん!」
トトトっと小走りでベンチに行き、腰掛けるコタを公園の外の木に寄りかかりながら見張る。公園の広場では、コタより少し大きい少年たちがサッカーをしているのが見える。しばらく見ていると、2時になったのかコタが立ち上がって歩いていき、交番の前の警官に声をかけている。
「もう行ったか?」
振り向くと、ヒロが立っていた。自販機に寄ったのか、手には缶コーヒーが2つ握られている。
「遅せぇよ。2時の約束だろ。」
「大丈夫だったか?」
「ああ、交番入っていった。」
渡された加糖の缶コーヒーは温かい。緊張していた身体から力が抜ける。
「帰るか。」
「ああ、帰ろう。」
元来た道を、ヒロと歩いて車に戻る。途中でヒロの手を掴むと、ギュッと握り返してくれた。監視カメラの無い道だ。人通りも無い狭い道、男同士で手を繋いでも気にする事は無い。これから事務所に戻って車を返して、今回の仕事はお終い。久しぶりの助手席に乗り込む。
「さて、行きますか。」
「うん。」
ヒロがエンジンをかける。今から戻れば、いつものスーパーで夕飯の買い出しが出来るだろう。
「あー、今日、鍋食いたいな。」
「いいな。」
「何鍋にする?俺、キムチ鍋がいい!」
「じゃあ、キムチでいいよ。」
二人だけを乗せた車は、俺たちの街へと出発した。
(終)
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