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第2話 乙女ゲーム
チャイムが鳴ると一斉に各教室のドアが開いて生徒たちが廊下に飛び出てくる。
人の流れを逆らいながら隣のクラスに入っていくと、ボサボサでブラシでとかしてもいない真っ黒な髪に黒縁のメガネで地味な陰キャ 坂井公彦を見つけた。
挙動不審にキョロキョロと周りを見回して取り出したスマホを慌ててタップしている。
驚いたように目を見開いたかと思ったら、急に嬉しそうに笑った。
誰とメールしてんだよ。
胸の奥がざわつく。
夏休みに誰かと遊ぶ約束か?
今まで見たこともない笑顔を向けている坂井に凄くむかついてスマホを取り上げた。
「えっ?!」
「坂井公彦く~ん 何してんだよ。速攻スマホいじって」
びっくりした顔で俺を見つめている。
そうそう、お前は俺を見てれば良いんだよ。俺がお前の支配者だ。
「浜中!何すんだ返せっ!!」
「おっと危ない」
坂井がスマホを取り返そうと飛びかかってくるけれど、俺のほうが運動神経が良いから簡単にかわせる。
すぐに下條が間に入って坂井の行く手を邪魔している間にメールの相手を見ようとした時、叫び声が聞こえた。
「いてっ!コイツ噛みやがった!!」
「返せよっ!スマホっ!!」
下條を振り払ってスマホを取り返そうと必死の坂井に加藤が後ろから抱きついた。
「ちゃんと捕まえておけよ。下條」
「だってコイツ噛むんだぞ」
「放せっ、お前ら卑怯だぞっ!!」
「はは、ざーんねん。もうちょっとで届かなかったな。すげー必死じゃん」
下條も加わり二人がかりで坂井の動きを封じるとゆっくりとスマホを見た。
「そんなに大事なメールか?ん? 違うな。ゲーム?なになに 【ときめき…」
「くそっ、放せっ!!見るなぁ!!」
「【ときめき魔法学園へようこそ💗】?なんだこれ? お前こんなゲームやってんの? こんなの女子のやるゲームじゃないか」
拍子抜けしたのと、女とメールしていたんじゃないのかホッとした。
ん?なんで俺がホッとしなくちゃなんないんだよ!!
「えー、坂井くん。【ときまほ💗】やってんの?」
「うっそー」
俺達のグループの女子に笑われて坂井は悔しそうだ。
そんなにこのゲームをやっていることを知られたくなかったのか。
「俺はキャラデザの絵が好きだからやっているだけで、こんなゲームが好きじゃない」
「えー、ホントにー?」
「Re:アルフさんみたいなイラストレーターになりたいから絵の勉強を兼ねてゲームしているんだ。じゃなきゃ男の俺が女のゲームをするわけないだろ。今日は新しいイラストがアップされるから早く見たかったんだよ」
イラストレーターね…そのためにわざわざ乙女ゲームをやっているのか。
こんな絵のどこが良いんだ。
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