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第75話 炎の剣 ーエイプ・フリーレルー
神子様が火属性の魔物討伐に出発してから今日で7日。
向こうで儀式をするなんて思わなかったから心配ですね。
密契の儀式をした後、下がった力を回復するまで一日を必要とするから、討伐エリアが7カ所、休んだ1日を足して順調に進めば8日で帰還、明日帰って来る予定でしょう。
もし長引いたとしても、大丈夫なように薬は多めに渡してあるから足りなくなることはないでしょう。
それでも私が討伐に行けたらと何度も思う。
神子様のいない魔法学園は平和そのもの………というより、風紀が乱れている。
ラリー殿下はもう王になったつもりで片っ端から貴族令嬢を側室にしているし、
マーチは男性の恋人を作って家に通っているし。(ここに呼び付けないだけマシですが…)
メイゴは自室に引きこもったまま生活をしている。
ローガックス様はギャンブルに夢中らしく、国から支給されている報酬では足りないようで私の所にまで借りに来ました。(断りましたけど)
ショーカ様は娼館に入り浸りで帰って来ません………マーチよりも酷いですね。
残りは最後の討伐が控えているアルーバ兄弟だが………倫理的にあの二人には関わりたくないです。
あの二人は国王になるつもりがないから放置しても差し障りがないから安心です。
王の資質がない者ばかり勇者に選んで神が何を考えているのかわかりません。
私が王になったらとてもじゃないけど家臣として使えない者ばかりです。
「はあ、どうして私だけこんなにも忙しいのか………」
今日も国の仕事の他に、新人の弟子の育成、見つけ出した優秀な人材を家臣としての教育もしなくては………。
「フリーレル!フリーレル!大変なんだ来てくれっ!!」
………………。
私は忙しいというのにこれです。
たいした事ないのに騒いで来るんですから困りますね。
「ノーベン・アルーバ、私は忙しいんです。後にしてくれませんか」
「助けてくれ。ディッセンが具合悪そうにして、食事中に急に吐いたんだ」
「それは本当ですか!」
討伐前の勇者の体調不良なんて困ります。
明日、神子様が帰ってきたらアルーバ兄弟に二日で儀式を済ませてすぐに木属性の魔物討伐に行く予定なのに、今体調を崩されは困るんですよ。
「わかりました。すぐに行きます」
連れてこられた部屋はノーベン・アルーバの部屋だった。
ベッドには青白い顔をしたディッセンが洗面器を抱えてえづいてる。
胃の中のものは何もなくなって吐くに吐けないようで苦しそうだ。
「ノーベン、厨房へ行って胃に優しいスープを作ってもらいなさい。ああ、油が入ってないものでディッセンが食べられるものでですよ。嫌いな物では作らないように!貴方なら彼の好みが分かるでしょう。それと水とカットフルーツをすぐに持ってきて下さい。胃に何か入れないと余計体調が悪化します」
「わかった。スープとフルーツと水だな。すぐ戻る」
「ううっぷ、うっぷっ」
「何か変な食べ物を食べましたか?」
ディッセンは ふるふると小さく首を振る。
額に手を当て熱を計っても普通。
「熱もなさそうですね」
「水とフルーツ持ってきたぞっ!!」
「ノーベンいい所に来ました。水を飲ませたら彼の服を脱がして下さい。身体を診察します」
口を濯いで水を飲むと少し落ち着きを取り戻し、色とりどりのカットフルーツを口に入れる。
フルーツの中でもみずみずしいオレンジが好きらしくそればかり口にしている。
「今、吐き気は?」
「少し…今は大丈夫…だ」
ノーベンが寝間着を脱がすとディッセンの下腹部に刻まれた魔法紋が赤く染まっていた。
なんだ、大騒ぎして驚かせないで下さいよ。
「はあ、もう服を来ていいですよ」
「なんだよ。それで終わりか?ちゃんとディッセンを診てくれよ」
「大丈夫ですよ。病気ではありませんから」
「こんなに具合悪いんだぞ。なんでもないわけ無いだろう!!」
「落ち着いて下さい。とりあえず彼には吐かずに食べられるものだけを食べさせて下さい。吐く時どうしても腹筋を使いますから腹筋を使わせないようにしてください。偏ってもいいですから、今は食べて栄養をとることを優先にして下さい。しばらくすると吐き気はおさまるはずですから」
「? 時間が絶てば治る病気なのか?」
私の見立てに二人は疑うような視線を向けてくる。
「そうですよ。子供が出来ただけで騒がないで下さい」
「子供?」
「ディッセンはただのつわりです。なにも驚くことないでしょう。夫婦の営みをしていれば出来て当然です。こんなにすぐに出来るなんてディッセンは妊娠しやすい体質だったんですね」
「!」
「やったぞ、ディッセン!!ボク達、パパとママになるんだぁ!!」
「………え…?……二人で何を言ってるんだ………嘘だろ?………」
? ディッセンの様子がおかしい。
「子供だなんて…嘘だよな?……」
「本当だよね♪ここに俺達の子供がいるんだって💗」
ノーベンはディッセンのお腹を嬉しそうに擦る。
「……俺を神子様のようにしたのかっ?!」
「そうだよ。嬉しいだろ?」
会話の温度差が凄い。まるで噛み合ってないじゃないか。
「待って下さい。ノーベン、どういうことですか?ディッセンは子供を欲しがっていたわけではないのですか?」
「ボクの妻なのに同意なんて必要ないよ。結婚もしたし子供はサプライズプレゼントってことで嬉しいだろ。ディッセン💗」
「うわああああああああああああっ!!」
「ディッセンどうした。妊娠したんだぞ。嬉しいだろ」
ベッドを飛び降り、傍にあった炎の剣を手に取った。
「ディッセン、何をする気ですかっ!」
それでノーベンを斬るつもりなんですか?!
「子供なんてもう嫌だっ!! こんなモノこうしてやるっ!!」
炎の剣を自分の腹に向けて突き刺そうと振り下ろした。
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