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第79話 アリージャ ーガストー・サオマー

 * * * 「み、みなさん。ま、魔法学園に到着しました」 「ふうぅ…」 「リ、大丈夫か?!」 魔法学園に帰れた安堵とセプターのせいで俺は地面にへたり込んだ。 転移のあいだ中、後ろから抱きしめられていた俺は 全身でセプターの息遣いと体温を感じされられていたんだぞ。 大丈夫なわけがないだろうと睨んだ。 「あっ」 セプターの手をとって立ちあがったけど よろけて胸に飛び込む形になってしまう。 「立てないのなら俺が運んでやる」 「違う、ちょっとよろけただけだ」 慌てて離れるとまたふらついてしまい、セプターに腰を掴まれる。 「あ…ちょっと、離せ」 「ふらふらしてるじゃないか」 「大丈夫だって離せよ」 「ふうん、そうやって甘えるのかー、ああー、フェリス~、俺 足が痛くて歩けない(棒)。俺の部屋まで抱いて連れて行けよ💗」   「は、はい神子様」 じたばたしている俺をみて神子様があてつけるようにオークト様に甘えている。 何もあてつけなくても俺はわざとじゃなく本当によろけたんだ。 「有難う、助かるよフェリス~💗」 「い、いえ こ、これくらい た、大した事……んんんっ💜」 神子様はオークト様の首に腕を回してキスをしはじめた。 「んはぁ💗 なあ、お礼にこのあとまた儀式しようぜ💗 ぐっちゃぐちゃでトロットロの激しいヤツ💗」 「み、みみみみみみ、神子様💜」 「フェリス、口を開けろ💗」 「は、はい、み、神子様…んんんっ💜」 「んーーっ💗はふっ💗んっ💗」 何度も角度を変えて水音が聞こえる濃厚なキスを見せびらかしている。 セプターは神子様に魅力なんか感じないから そんなことして煽っても全く意味がない。 何をしているんだ、馬鹿馬鹿しい。 オークト様の真似をしようとセプターは俺を抱き上げて運ぼうとする。 「やめろ、自分で歩ける」 正直に言うと、じんじんと体が疼いて足に力が入らないから部屋まで連れて行って欲しい。 だが、ここは魔法学園、討伐を終えて現実に戻ってきたらそうはいかない。 神子様に嵌められたとはいえ、向こうでは討伐の為、セプターの為に抱かれただけだ。 明日になれば薬も切れてセプターは正気に戻る。 俺とセプターはただの親友に戻るんだ。 きっとセプターの記憶では いつのまにか討伐が終わっていたことになっているはずだ。 ……悲しいけれど……それでいい。  俺にはセプターに愛されたという思い出があるだけで十分幸せだ。 セプターを押しのけて帰ろうとしたその時、目の前を水の膜が俺達二人を覆う。 …ん?『水の守護』なんでオートガード? それも一瞬で蒸気に変わった。 「熱っ!!」 「なんだっ!!」 守られるはずのオートガードが機能しないほどの熱量で、俺とセプターは蒸気で中から蒸し焼きされそうだ! 素早く動けない俺をセプターが抱き抱えて熱源から離れてくれた。 「一体何なんだ?!」 振り向むくと炎の柱が立ち 中心にはアリージャがいる。 アリージャは怒りの表情で全身から炎が吹き出し、身体を覆っている物全てを燃やし尽くしていた。 魔法学園の地面は真っ赤に焼けて 先ほどまで戦っていたファイヤードラゴンの巣のようになっている。 「あああああ―ッッ、どいてオークト様ぁっ!!!」 アリージャが足元のマグマから炎の球を5つ作り出して神子様とオークト様に向けて打ち出した。 「アリージャ!!」 水属性のオークト様はすべての炎の球を水や氷で撃ち落としていく。 火属性が水属性に勝てるわけがない。 それに魔力はオークト様の方が絶対強い。 「神子…許…さない…オークト様…は…俺゛の゛ぉ゛……」 「アリージャ、何をそんなに怒っているんだ」 熱いっ、こんなに離れているのに またオートガードが作動する。 アリージャは罪人だけど勇者に選ばれたと聞いている。 首にあった大きな金の首輪は人に危害を加えない為につけられているもののはずなのに 溶けてなくなっているじゃないか!!! ……いや、よく見ると炎の反射で見えにくいだけで首輪は体にピタリと密着しているのか。 アリージャは足元のマグマを無数の炎の球にかえ、空を真っ赤に染めた。 まさかこれを全部?! 本気で殺す気なのか?! 神子様を??……… 「お゛あ゛あ゛―――――ッッ」 「「駄目だっ!!」」 「「輝く聖なる水ホーリーウォーター!!」」 俺達が叫ぶのと同時に黄金の水が大小2つの塊となってアリージャへと放たれた。 バシャァァァァンッ!! バシャァァァァンッ!! 大きい水の塊は炎の球を全て消火し、小さい水の塊はアリージャの鳩尾を直撃した。 大量の水の攻撃に辺り一面膝丈まで水浸しになり、マグマは冷えて固まった。 直撃を受けたアリージャは胃の中の物を戻して前のめりに倒れて沈む。 上空で消火された炎の球は火の能力者の力を失い、溶岩石の雨となってアリージャの周りにドボンドボンと降り注いだ。 ……助かった。 オークト様と 兵士を連れた大魔道士エイプ・フリーレル様の二人が水魔法を放ってアリージャの暴走を止めてくれたのか。 「アリージャ!学園を焼き払う気ですかっ!! まったく囚人の首輪はどうして作動しなかったんですか?」 兵士はバシャバシャと水を踏み分けて意識のないアリージャを捕まえて立たせる。 「…!!…なんだこれは……なんて恐ろしい男だ……能力封じの腕輪を持て、早く!!」 大魔道士フリーレル様はアリージャに追加の能力封じの腕輪を装着してから、息も出来なくなるほどアリージャの首にめり込んでいる首輪をもとのサイズに戻した。 「息をしていない。ヒール」 「ひゅっ……ごほっごほっ……」 息を吹き返したが、意識までは戻っていないようで身体が入っていない。 「…ふう…アリージャを連れていきなさい。十分に気を付けるように。意識がないからと言って油断すると死にますよ。牢屋も必ず魔力封じの牢に入れておいて下さい。彼は次の討伐に必要な人材ですから、手荒なことはしないように。」 「…!!…はい、心得ました……」 ぐったりとしたアリージャは衛兵に両脇を抱えられて連れて行かれた。 「一体どうして こんなことになったんですか」 「なんでもないよ。エイプ。ちょっとガストーの真似をしただけ、そうしたらアリージャがやきもちやいたんだ」

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