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第95話 会いたい -セプター・バンテール-

俺に元気を出させるためにガストーが、おどけて食事をとりに寝室を出て行くと静かな空間に戻る。 「俺は嘘つきだな…」 記憶に靄がかかっていて覚えていないなんて… そんなわけがない!! 盛られた薬で多少酔っぱらったような感じになっていただけで、人生で一番幸せだったあの日々を忘れるはずないじゃないか。 ベッドで妖艶に誘う色っぽい姿や、俺が愛しすぎて身体が持たないと瞳を潤ませたり、 それでも身体を繋げれば全身で喜びにうち震えていた愛らしい姿 俺の愛を受け入れて、涙を流して指輪を受け取ってくれた。 絶対に叶わないと思っていた恋が実り、リーフと一緒に暮らせると、時間を忘れて彼を抱き続けた。 世界中の幸せを俺が独り占めしたようだった。 それが全て別人だったなんて…… 「リーフ………」 こんなことになるなら儀式を拒絶しないでちゃんと受ければ良かった。 勇者の務めで神子様を抱いたとなれば、リーフは許してくれたかもしれない。 そして世界が平和になったら、リーフに正式にプロポーズして結婚出来たかもしれない。 かもしれない かもしれない ……………… 無駄と分かっているのに何度も考察を繰り返してしまう。 自分の薬指に目を落とせば、そこにはガストーとの婚姻の証 ヘマタイトの指輪が銀色に光って俺を現実に引き戻す。 「くっ、なんてことをしたんだ」 俺は神子様を抱き、ガストーを抱いて結婚してしまったんだ。 この事実はどうやっても変えることは出来ない。 リーフの村の掟になぞれば、俺はリーフに求婚するどころか愛する資格すらない。 「絶望的だ…」 『ははは、お前が深く考えすぎるんだよ。くよくよ考えるな。たかが魔法だ。ある日突然効果がなるなるかもしれないじゃないか。明るく前向きに考えろよ』 俺に投げかけたガストーの言葉が頭の中で再生されると、口からは乾いた笑いしか出てこない。 「……はは、ガストーの奴……目の端に涙を浮かべてそんなこと言ってたって……全然説得力ないぞ…」 悪いなガストー…本当に俺は悪い奴だ。 お前にこんなに良くしてもらっているのに ……俺はリーフを愛する気持ちが止められない。 リーフに会いたい。会いたくて仕方がない。 ……でも……リーフに会うことが怖い。 笑顔のリーフに祝福の言葉を言われるのが怖いんだ。

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