94 / 113

第94話 古代魔法 ーガストー・サオマー

「…あ…っ……」 胎の中がキュンと疼き、自分もセプターを覚えているから欲しいと主張してくる。 早く忘れてしまえばいいのに、俺の身体はなんて諦めが悪いんだ。 「どうした?具合が悪いのか」 「なんでもない」 込み上げてくる感情を抑えきれなくて席を立った。 「待て、話は終わってない」 「もう終わった。覚えてないんだ。なかったことでいいじゃないか」 「待ってくれ、お前に渡した指輪のことで大事な話があるんだ」 「……指輪……」 この指輪を取り上げられる そう思ったら、左手を右手で覆い隠してしまった。 「その指輪……絶対に外すことが出来ない指輪なんだ」 「えっ?」 「俺がそうなるように この二つの指輪に特別な古代魔法をかけてもらった。指輪をつけたら婚姻したとみなされ、婚姻を破棄できない。指輪を壊すことも、離縁することも、他の者と通じることも出来ない強力な古代魔法だ。どちらかが死ぬまで指輪は外れない」 薬指にあるアメジストの指輪はキラキラとまるでほほ笑むように光っている。 「お前は俺のために色々してくれたのに……それなのにお前を開放してやれない」 「………この魔法、解くことは出来ないのか?」 「かけることは出来ても解くことは出来ない。解く魔導書が見つからないんだ。だから死んで指輪の呪縛から開放してやろうと…」 「バカっ!死ぬなんて軽々しく言うなっ!古代魔法だろうがなんだろうが お前の命に比べたら痛くも痒くもない。死ぬなんて考えるなバカ!!」 「…すまない…だけど俺は……………………お前を愛していない…」 ズキンと心に言葉の刃が刺さる。 「………………………………知ってるさ」 わかってはいたものの、本人の口から直接言われると流石にキツイ 「!!」 驚くなよバカセプター。 何回『リーフ』と呼ばれて抱かれたと思ってるんだ。 「すまないガストー…お前の人生を全て台無しにしてしまった…結婚も子をなすことも全て奪ってしまった…」 「俺に悪いと思うなら、生きて償ってくれよ。俺のために死んだなんて寝覚めが悪すぎる」 涙を拭って振り向いて笑ってやる。 「ガストー…」 「なあ、この指輪、そんなに凄い拘束力があるのか………ふんっ!!」 指輪を眺めながら、指で摘んでくるんと回るのに引っ張ると抜けない。 「驚いた!本当に抜けないんだ これ。………んじゃあ、しばらくの間、宜しくな。俺のダーリン💙」 俺が額にキスしてやるとセプターは目をまんまるくして驚いてる。 「今から野菜スープ持ってくるわん💙今度はちゃんと食べてよぉん💙俺のお願い聞いてねダーリン💙」 裏声でくねくねしてウィンクしてやると二度目は流石にふざけている事に気づいたようで 「ま、またいつもみたいに、ふざけてる場合かっ!!これは冗談じゃなくて本当のことなんだぞ。もっと真面目に重く受け止めろよ!!」 「ははは、お前が深く考えすぎるんだよ。くよくよ考えるな。たかが魔法だ。ある日突然効果がなるなるかもしれないじゃないか。明るく前向きに考えろよ」 「明るく前向きって お前……はぁーー……なんか真面目に話している自分が馬鹿らしくなってきた。もういい、なんか腹が減ってきた。早くスープを持ってきてくれ」 「はぁ~い💙今すぐ持ってくるわん💙俺のダーリン💙」 「ガストーそれはやめろっっ!!」 「あはははははははっ」 バタバタと小走りで寝室のドアを閉めると、ドアの横に立っていたハーマンが嬉しそうに声をかけてきた。 「サオマ様、今のは旦那様のお声ですか?元気になられたようですね」 「……はは………完全に元気とは言えないけどな…」 「いいえ、ガストー様の愛の力が旦那様を元気にさせたのですよ」 愛の力か……ハーマンにはそう見えるのか…… 「………ハーマンここを頼む。セプターの食事を取りに行ってくる」 「それならば私が参ります。ガストー様は旦那様の傍についていて下さい」 「…そうか、では頼む」 ハーマンを送り出しリビングで一人ソファーに腰掛ける。 俺のために死のうとしてたなんて…バカだな。 早く言ってくれれば、こんなに大変なことにならなかったのに…… お前に束縛されるならどんなことでも俺は嬉しいんだぞ。 この小さな指輪に死ぬまで続く婚姻の魔法があるなんて凄いな。 どうか、いつまでも消えないでくれ。 そう願って指輪にキスをした。

ともだちにシェアしよう!