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第93話 大切な出来事とどうでもいい事 ーガストー・サオマー

「外す必要などないでしょう。なくさないようにちゃんと付けておいて下さい」    ………?…なんだ? おかしい、どうしてアイツいないんだ? 「ハーマン、リーフはどこだ?」 「リーフは屋敷におります」 「なんでだ?!あれだけリーフに持ってこさせろと言ったのに!はっ!」 リーフが来たと喜んでいた所にいなかったから、それがショックでセプターは倒れたんじゃないのか?! 「話し声が大きいです、もう少し声を落として下さい。患者の前では静かに」 「………そうだぞ、みんなうるさい」 「セプター!!」 「良かった、旦那様。目を覚まされたんですね」 目を開けたが起き上がることは出来ず、蒼い顔して横になっている。 「バンテール様、お身体が限界です。どうか食事を取って下さい。このままでは命に関わります」 そんなこと言ってもリーフがいなければ セプターは食事をとってくれないだろう。 セプターの為に呼んだのに なんでリーフがいないんだ。 「心配をかけたな。これからはちゃんと食べる。みんな…すまないが、ガストーに話がある二人きりにしてくれないか」 「?!」 「はい、それでは何か御用がありましたら隣におりますのでお呼び下さい」 ハーマンは嬉しそうにお辞儀をすると医者やナース、メイド達をベッドルームから急いで追い出しながら出ていった。 「………」 「………」 二人きりの寝室で、気まずい空気が流れる。 ここは3日前に俺達は愛し合っていた場所で……喧嘩した場所…… 「……ガストー、確認したいことがあるんだ。討伐中のことから順を追って話を聞いてもいいか」 「…ああ…」 「エリア2の討伐の時に片腕を失って医療テントに運ばれた時のことだ。抵抗できない俺の上に神子様が跨って無理やり薬を飲まされたところで 記憶は止まっている」 なっ!!あのクソ神子!! 「失ったはずの この腕がついていて無事に魔法学園に帰還しているということは……俺は『密契の儀』を済ませたんだな…」 自分の推察を事実かどうか俺に確認しているんだ。 「助けられなくてすまないっ!!……お前の治療に使う薬草が足りないからと俺達は薬草を探しに行かされて、戻ってきたときはもう…」 「………そうか……」 ため息の混じった沈んだ声が痛々しくて俺の心に突き刺さる。 「……飲まされた薬のせいか俺の頭の中は靄もやがかかっいて自分が何をしていたか思い出せないんだ…………正直に言おう。俺はお前にプロポーズしたことも、指輪を渡したことも覚えていない……多分お前は…………俺の為に色々してくれたんだろう…本当にすまない」 ぎゅうううっと心臓を締め付けられるように痛くて胸を押さえた。 「あ、謝るなよセプター、薬で覚えてないのなら仕方ないだろう。逆に覚えてなくて良かったじゃないか。お前にとって討伐中の思い出なんて楽しい事一つもなかったから…」 独占欲が強くて俺を片時も放すことが出来なくて 少しでも時間があればキスをしてきて 夜になれば身体が溶けてしまいそうなほど俺を抱き 愛していると熱く口説かれていた日々 俺にとってはとても大切な出来事だったが、セプターにとってはどれも覚えていなくていい事

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