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第108話 不利な戦い -ガストー・サオマ-

「ハハ、何を言っているんだフリーレル。知らないのか?神子を害しても、神子の為に選ばれた勇者がいる限り新しく召喚は出来ないぞ」 「知ってますよ、ラリー殿下。だから全員神子様と共に身罷(みまか)られて下さい」 「なんだと!!」 「あなた方が全員いなくなれば勇者は私一人、国民も私が王になることに納得するでしょう」 「「「「「「「!!」」」」」」」 「…私の魔法に従うしかないですからね!!『風の聖霊よ、怒れる天よ、全てを薙ぎ払え…』」 フリーレル様の前に風の渦が巻き起こりバチバチと雷が宿る。 どんどん大きくなって医療器具のメスだの針だの様々な物を吸い上げ竜巻は危険な成長を続ける。 オークト様が青い顔して叫んだ。 「皆さん逃げて下さいっ!! 風の最大攻撃魔法です!!!」 『聖なる大(ホーリーハリ)…』 駄目だ。間に合わない。全員殺されるっ!! 死を覚悟して目を閉じた。 お前を逃がせて良かった。 セプター、心から愛してる。 『ファイヤーボール!!』 轟音と共に何本もの赤い光と熱風が空気を切り裂いていく。 「ぐぁぁぁっ!」 風属性のオートガードを貫通し、フリーレル様の足と腹部に火球は当たり、丸く肉を削ぎ落とされていた。 我々を救ったのは唯一の火属性の勇者アリージャだった。 「ア、アリージャさん!!」 「オ゛ーグド様゛逃゛げで早゛ぐぅぅぅっ!!」 肩幅まであった囚人の首輪は、一気に縮んで容赦なくアリージャの首を締めている。 犯罪者につけるために作られた この首輪は魔法を使おうとするだけで、首を絞めて動きを止めさせる魔法道具。 苦痛にゆがんだ表情からアリージャは魔法を放つポーズをとるのが精いっぱいのようだ。 「ああーん💗フェリスお前いやぁ、エイプがいい💗」 神子様はジタバタとオークト様の腕から逃れて殺されに行こうとしている。 「み、神子様、危ないです。大人しくして下さい、わわっ!!暴れないで……し、仕方ありません『幸せな夢を(スイートドリームス)』」 「う……ん」 くたっと力が抜けて眠りについた神子様を抱き抱えてアリージャの横についた。 「ぐう゛う゛う゛……」 苦しそうに唸るアリージャの首輪に手を添えてオークト様が唱えた。 「……………………………『我われが命ずる囚人の首輪よ、この者を解放せよ』『癒しの雨音』」 バキン!という音と共に喉を締め付けていた首輪はゆっくりと広がってゆく、雨音と共に紫色の光がアリージャの身体を包み込んだ。 「助かりました。有難うアリージャさん、……………………………………………………………貴方だけが頼りです。お願いします」 アリージャは しきりに頷き、肩で息をしながら両手を前に構えてフリーレル様から目を離さない。 『癒しの雨音』をかけてもらってもダメージがまだ残っているみたいだが、今 フリーレル様と対抗できるのは火属性のアリージャしかいない。 「『癒しの露草』…アリージャぁっ!!この私の身体に怪我をっ!!『囚人の首輪よ、我われの声に答えその者を戒めよ!』」 囚人の首輪は一気に小さくなりアリージャの首を絞める。 「あああっ!! ブァ゛イ゛ヤ゛ーボール゛ぅぅ!!」 フリーレル様とアリージャが魔法を使うのはほぼ同時だった。 アリージャが放った火球は先程とは違い、ぐにゃぐにゃと不規則に動きコントロールがめちゃくちゃ。 魔法の相性が悪いフリーレル様は(かわ)したり、攻撃して相殺している。 その隙にオークト様が神子様を連れて俺の所に来た。 「逃がすものかっ!!ウイン…ぐあっ!!」 火球の1つがフリーレル様の肩に命中し肩の肉をごっそり持っていく。 「『癒しの露草』っ!!クソクソッ!!こんなことになるなら、お前をアルーバ兄弟と一緒に始末しておくべきだった。覚悟しろアリージャ!!」 手をかざすと そこに立っているはずのアリージャは床に倒れていて動かない。 「ふふ、囚人の首輪に倒れたか、ふははははは、これで面倒な火属性の勇者全員葬ってやったぞ。ははははは」 「まさかっ!!アルーバ男爵兄弟を?!」 逃げることも出来ず固まっていたシューライ・ショーカ様が驚いて声をあげる。 「ああそうだ、密契の儀で兄のディッセンが神子様の子供を身ごもったからな」 「「「「「「?!」」」」」」 「なんだと?!」 神子様の子供を身ごもる男がいるなんて初めて聞かされる真実に皆驚いて声も出ない。 「神子様が孕むより、先にディセンが神子様の御子を妊娠したんですよ。御子が産まれてしまえばディッセンが王になってしまう。それでは私の今までの努力が全て無駄になるだろう?だから木属性の魔物討伐が終わった時、用済みになったディッセンには帰還途中に時空の狭間で消えてもらった」 「勇者を……仲間を殺したのか?!」 「誤解しないでくれたまえ。彼らは望んで時空の狭間に飛び降りて行ったんだ。私は何もせず見ていただけ、手は下していないでしょう。はははは」 得意げに殺人を話すフリーレル様の顔は狂気に歪んでいた。 「さあ、フェリス・オークト様、神子様を寄越しなさい。魔力の強い貴方なら、殺さず私の右腕として生かして差し上げましょう」 そんな見え透いた嘘をオークト様が信じるわけがない! 皆、じりじりとフリーレル様との距離をとる。 フリーレル様と魔力相性が一番悪いシューライ・ショーカとジュン・ローガックスは恐怖に耐えきれず示しを合わせて近くの窓から逃亡を図る。 「浅ましい 勇者の風上にも置けないですね『ウィンドカッター』」 「「ぎゃあぁぁぁっ!!」」 二人の背に風の刃が突きささり、絶叫と共に倒れた。

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