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第110話 勿体ない ーフェリス・オークトー (残酷です)
「サオマ様、神子様をお願いします」
神子様を預けて現場へと向かう。
アリージャさんは、あの短い時間で私の指示を完璧に理解してくれました。
***
私達を救ったのは唯一の火属性の勇者
「ア、アリージャさん!!」
「オ゛ーグド様゛逃゛げで早゛ぐぅぅぅっ!!」
彼は自分の命を顧みず魔法を放ってくれたのだ。
アリージャさんのお陰で命からがら逃げ出すことが出来た。
「ぐう゛う゛う゛……」
私は命をかけて助けてくれたアリージャさんを信じることにしました。
苦しそうに唸るアリージャさんの首輪に手を添えてフリーレル様に気づかれないように3つ唱える魔法の内、初めの1つだけ小さく唱えた。
『アクアアバター』
囚人の首輪のアクアアバターを作った。
『我われが命ずる囚人の首輪よ、この者を解放せよ』
次に本物の囚人の首輪を壊し、アクアアバターの首輪を肩幅まで広げる。
『癒しの雨音』
アリージャさんの傷を癒す。
上手くすり替えたから周りには、囚人の首輪がまだアリージャさんを拘束しているように見えているはずです。
「助かりました。有難うアリージャさん、…(彼は貴方の首輪を絞めるはず、苦しいふりをして乱れたファイヤーボールを撃ち、この場で仰向けで死を偽装して下さい。私の合図と共にフリーレル様に全力でファイヤーボールを打ち込んで)…貴方だけが頼りです。お願いします」
***
あの極限状態の時によく理解してくれました。
平民とはいえ彼は元々自頭が良かったのでしょう。
助かりました。
アリージャさんの傍に駆け付けながら指示を出す。
「アリージャさん、魔法攻撃されては困ります。口と喉を攻撃して下さい」
「はい!」
アリージャはすぐに立ち上がって『ファイヤーボール』を放つ。
不意を突かれて攻撃を回避出来なかったフリーレル様の身体には燃え盛る火球が一列に並んで燃えている。
追加攻撃はフリーレル様の身体の口と喉を潰すどころか首から上は、すでに焼失していた。
にも関わらず、身体はめり込んでいた火球を押し出して肉を盛り上げて復元しようとしている。
「ああ、さすが大魔導士エイプ・フリーレル様、抜かりないですね。独自の再生魔法が身体全部に組み込まれているのですか?! 頭部を失っているのに発動するとはそういうことですよね?! 凄い、なかなか興味深い身体です。是非研究させていただきたい」
私自身が構築出来ていない新しい魔法を目にして、つい嬉しくて顔が微笑んでしまう。
私の研究意欲をそそる素材を手に取ろうとするとアリージャさんが叫んで止めた。
「危ないオークト様!火傷します!!」
「…あ…ああ、そうですね…でもこんな貴重な魔法を失うのは大きな損失です…………」
フリーレル様の身体は下顎と喉が再生されてがが声を出すほどになった。
「お゛あ゛あ゛あ゛……」
まだ脳がないから魔法が唱えられないのですね。
「なるほど、なるほど」
「オークト様!どうするんですか?このままじゃ生き返ります!」
「えっ、あっ、うう~~ん……」
フリーレル様という危険因子を残すわけにもいかず断腸の思いで決断した。
「………うう……非常に勿体ないですが、全てなくなるまで…魔法を打ち続けて下さい」
「はい!」
見ていたらアリージャさんを止めてしまいそうなので私は背を向けた。
「『ファイヤーボール ファイヤーボール ファイヤーボール』」
「くうっ、勿体ない…勿体ない…」
フリーレル様の死体?にアリージャさんは火球を打ち込み続け、再生する肉片を全て焼き尽くしてくれました。
「ああ、勿体ないです」
私は後ろ髪惹かれながらサオマ様が守っている神子様の元へと足を運んだ。
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