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第111話 存命 ーガストー・サオマー

神子様を守っている俺にラリー殿下が怒鳴り散らしてきた。 俺にとって神子様は性格悪くセプターとの間に子供をもうけた憎い奴。 こんな奴どうなってもいいと思っているけど、オークト様に頼まれた手前、ラリー殿下に差し出すことは出来ない。 「もう一度密契の儀を行う。神子を寄越せ、今度こそ私の子を産ませる」 意識のない神子様の腕を掴んで連れて行こうとするラリー殿下の正気を疑った。 「お待ち下さい、ラリー殿下。それは無理です。国王は先程セプター・バンテールに決まりました」 「何を言う。バンテールは不正をしたとフリーレルが申していたではないか。あいつは王にふさわしくない。もう一度はじめからやり直しだ。神子を寄越せ」 「セプターは不正などしておりません。セプターには想い人がいます。その人を裏切りたくなくて神子様を拒絶していたのです」 「拒絶だと? ではなぜ御子が産まれたんだ!密契の儀をしたからであろう」 どれだけ俺達が辛い思いをしたか知らないくせに、証明するために思い出すだけでも辛いことを口にしなくちゃいけないのか。 悔しくて涙が零れる。 意識のない神子様を睨みながら真実を語った。 「それは神子様が媚薬を盛ったからです。セプター本人の意思ではありません。でも薬を盛られなかったら加護のない水属性の勇者と神子様は全滅していました。そして俺達を惨殺した火属性のファイヤードラゴンの怒りはこの国に向かい、この地を焼き尽くしていたことでしょう。ラリー殿下は国民と共にこの国で命を亡くす方が良かったと仰せですか」 正論を突き付けられて一瞬黙るがすぐに反論し始める。 「っ、だが肝心の御子はもういないではないか!国王決めはどうするんだ!」 「あ、ああ、な、なんて醜い悪あがきをしているのでしょう」 「なに?!」 オークト様が俺とラリー殿下の間に割って入ると、少し遅れてアリージャが来て彼の腕にしがみつく。 「オークト様💗終わりました。全部燃やしたよ💗」 力なく「はは…そうですか」と燃え盛る炎に悲しそうに目をやり、すぐに視線をこちらに戻した。 「サ、サオマ様、神子様の護衛有難うございました。そ、それでは皆さん国王が決まりましたのでご自分の家に帰る準備をして下さい」 「オークト、貴様何を偉そうに私に命令しているんだ」 怒りの矛先を俺からオークト様に変えてまた怒鳴る。 「え、偉そうではなく偉いのです。今から私は大魔導士フェリス・オークトとなりました。ラ、ラリー様、貴方の地位はフェイブ国王の皇子ではなく、フェイブ公爵のご子息に落ちました。わ、私は国王の次に偉い大魔導士ですよ。口を慎みなさい。」 公爵に落ちたという言葉にラリー様はキレた。 「誰が公爵だっ!!  まだ私は皇子だ。私が国を統べるのは当たり前であろう。フリーレルが御子を殺した今、新たに国王を決めるため、これから神子に子供を産ませなくてはならんではないか」 「いいえ、御子様はご存命です」 「なに?!」 「転移魔法スクロールで安全な場所に避難されています。ご安心ください、国王様……おや?国王はどちらですか?」 「国王確定後ここから急ぎ退避していただきました」 「さ、流石サオマ様、素晴らしい!ご主人もさぞ鼻が高いでしょう」 「主人って俺とセプターは親友で主従関係じゃな…」 オークト様の頭の上には?が沢山浮かんでいて自分の薬指を指して 「お二人はご結婚されたんですよね?」 「…!!!…」 まさか、これオークト様が? 言葉に詰まっていると急に俺の足元が青く光りはじめた。

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