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第113話 幻

気持ちよく寝ていたところ 懐かしい声に身体をガクガク揺さぶられて起こされる。 「…ん…なんだ」 「浜中?どうしたんだ。急に立ち止まって……」 頭がくらくらしているのに身体を揺さぶるなよ目を開けるのも辛いんだ。 俺は子供を産んで疲れてるって思わないのかよ。 目の前には眉をひそめた加藤が俺の顔を覗き込み話しかけている。 「本当に大丈夫か、なんか変だぞ?」 「あ……またあの薬か…」 「薬?」 今度は加藤かよ…幻視薬なんか使わなくてもヤッてやるのに。 いいぜ ヤラせてやるよ。 加藤の顔を掴んで思い切りキスをしてやる。 子供を産んだとき看護師達が顔を青ざめて「この御髪(おぐし)…国王はセプター様だわ、どうしよう…」とか言ってたな。 アイツ薬なくちゃ俺とやれないのかよ。 それにしてもキスが下手くそだ。 口をきっちり閉めてやがる。 「ちゅっ💗口あけろよ」 「口…あける?」 加藤が喋っている間に舌をねじ込んでディープキスをしてやる。 「んちゅっ💗んんっ💗くちゅ💗はふっ💗んんんんっ💗ちゅっ💗」 はじめこそ抵抗するように手に力が入っていたが段々と力が抜けて代わりに加藤の下半身が堅くなって俺の身体にすりすりと当てて来くる。 「んんんっ…はあ💗浜…中ぁ💗」 キスだけでトロ顔になっている。 セプターってこんなに初心うぶだったか? まあいいか、コイツとヤることには変わりない。 二週間ぶりの男に俺の身体も期待して疼く。 またキスを繰り返しながらシャツのボタンを外す。 「ちゅるっ💗あっ💗くちゅ💗」 口を放すと加藤は自分から抱き着いてキスを再開する。 「んんんっ💗ぷちゅっ💗はんっ💗あ💗」 「何見せびらかしてんのよっ!!」 耳障りな甲高い女の声が背後から聞こえたかと思うと右の後ろから脇腹をガンガンと何度も殴られた。 「いってえな」 「ふ…ざけないでよっ!! 私は男以下だっていうの!! どこまで私を馬鹿にしするつもりなのよっ!! あんたに捧げたあたしの初めてを返してよっ!!!」 振り向くと髪を振り乱し目ん玉を吊り上げて怒っている女がいる。 「お前 誰だよ?」 「!!! だ、誰?信じられないっ!! 二日前に私の事可愛いって言って抱いたじゃない!」 「は?二日前もなにも腹の子供に触るからって2週間近く誰ともヤッてねえぞ」 「はっ、は、腹の子供って、あんたあたしが妊娠してるって言うの?! あんたが初めての男って言ってんでしょっ!!」 女は刃のない血まみれのカッターを握ってい俺に向かって振りかぶった。 馬鹿な女だな。刃が出てなければ切れるわけないけどだろう。 でもコイツがやばい女だというのには変わりない。 女の攻撃をかわして腰を捻ると さっき殴られたところが火が付いたように痛い。 「うぐ…痛っ」 腰に手を回すとカッターの刃が刺さっている。 何度も細い棒で殴られたと思っていたがカッターで刺されていたのか、触った右手の指も切ってしまった。 「きゃあああああああああああっ!!」 誰かが叫ぶと 皆巻き添えはごめんだというように一斉に教室の外へ慌てて逃げていく。 「あははははははっ!! 痛いの? いい気味だわ。私にしたことを後悔しながら死になさいよっ!!」 また女が刺しに来る。 「やめろ!!」 逃げずにいた加藤が俺を守って女の腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。 「ぎゃあっ……うぐっ、女の子のお腹を蹴るなんて…最低よあんたっ!!」 女は腹を抑えながら加藤を睨みつけて立ち上がる。 「そんなもん振り回す奴なんか女扱いするわけねえだろ。妊娠もしてないなら安心して蹴れる」 「何よ!そいつがみんな悪いんじゃない。浜中幸男のクズ野郎、浮気者、女たらし、死ね、死ね、死ね!!」 落としたカッターを探して見つからないとわかると飛び掛かってくる。 加藤と下條が女を捕まえて後ろ手で押さえた頃 ようやく先生が駆けつけてきた。 「先生早く!!」 「岡田っ!! お前何しているんだ!!」 「先生 早く浜中がコイツに刺されました。俺達が取り押さえているから救急車呼んで!!」 「なに! 浜中 大丈夫か?!」 馬鹿教師、俺に声かける前にさっさと救急車呼べよ!! 血がどんどん流れ出ているせいか 頭がくらくらして俺はその場に座り込んだ。 「救急車なら もう呼びました。後5分位で来るそうです」 「ああ、助かった有難う坂井」 「いえ」 「坂井?!」 坂井が生きているだと?! 声の方に視線を向けると眼鏡がない坂井公彦が俺を見下ろしている。 ああ、坂井だ。 はは、痛くて凄いリアルだったから、てっきり向こうの世界から戻ってこれたのかもって思ってたのに…… 死んだお前がここにいるのなら これはまた幻視薬が見せてる幻なんだな… 座っているのも辛くなって そのまま倒れた。 あのクソ女が刺したカッターの刃が更に身体に食い込む。 「いてぇ」 あれ? なんだ? 加藤が叫んでるけど声が小さい。 どうしたんだろう 視界がどんどん暗くなってきたぞ。 腹の傷は凄く熱いのに手足が冷たくて…寒い…身体の調子がおかしいな… ああ、俺 子供産んだから身体が変なのかな…?…酷く寒くて眠い… おい、誰だよ。明かりを消したのは…何も見えないだろ…… 凄く寒いんだ……誰か俺を温めてくれ…… end

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