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第1話

  どうして、こうなってしまったのかは俺の方が一番知りたい。 「………ゴメン、燐、もう一度言って貰ってイイかな?」 無礼承知で、俺こと、黒川稜稀は今ある状況に全くついていけず、大多喜燐にそう訊く。 燐は、しかつめらしい顔でちゃんと聞いててよとぷりぷり怒りながら、イイ?と人差し指で俺の胸板を叩く。 「だから、システムが起動してないみたいなんだって」 「ハア?コレって、仮想空間だからいつでも強制退去出来るんじゃないの?」 俺はマニアルを引き出してそう言うが、俺の目の前で大きな溜め息を吐き出す燐は、首を大きく横に振る。 「ソレが出来んなら、もうとっくの昔に強制退去してるって」 さっきのイベントも負けイベントだから、一定の時間が過ぎたりパーティーが全滅したら強制収容されるんだけど、そのシステムまで起動してないみたいだし。 そう言う燐に、俺は苦虫を口一杯に噛み潰した顔を醸すことになった。 「………ソレって、つまり………」 「ココに閉じ込められたことになるね」 燐は生真面目な顔でそう言ってこう続ける。 「幸いにも、身体を預けた場所がゲームシアターで良かったよ。コレが、俺の自室だったりしたら、生命の危機まであっただろうからね」 ひきっこもりの憐れな死にザマみたいなタイトルで報道されてたよと、呑気なことまで言っているから、燐は俺よりもずっと落ち着いているようだった。 絶体絶命のアクシデントに騒ぎ捲る連中とは違って、「稜ちゃん、出られないんならさ。ココは一つ、死なない程度にこのゲームを楽しまない?」と俺の顔を覗き見て、「他のシステムはちゃんと起動してるし、買い物や戦闘はこのゲームの醍醐味じゃん?」とニコニコと笑って俺の腕を引っ張る。 「ログアウト出来るようになるまで、遊んでようよ♪」 そう言う燐は、流石、ゲームの王様だ。 頼りになる。 ネットゲーで初めて燐に会ったときもそう思っていた。 実際の燐はそんな感じじゃなく、守って上げたくなる人物だが。 「もう!!ほら~、早く~!!」 燐に力強く引っ張られる俺は、「ああ」と更に苦虫を口一杯に噛み潰した顔で燐の後をついていく。 俺としては、頼りになる隣のお兄ちゃんから早く恋人まで昇格したいが、こう燐に仕切られては頼りになる隣のお兄ちゃんどころか友達の座も危うい状況であった。  

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