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第93話・ずっとこうしたかった⭐︎
空調が効いていて寒くはないが、心許なさに身を縮める。
杉野は曝け出された白い肌を見て目を細める。
「藤ヶ谷さん、綺麗な体ですね」
「で、電気消してくれ」
視線だけで犯されそうだと両手を体の前で交差する。すぐに手首を捕まれ、頭上でまとめ上げられた。
前回のヒート時に医務室でされたのと同じく、全く手は動かなかった。
だが、今の杉野はあの時の苦しそうな表情とは違う。手も痛く感じない。
「嫌です。ゆっくり見せてください」
慈しみを込めた声と目が藤ヶ谷を安心させ、昂らせた。
「ずっとこうやって、触れたかった」
「……っぁ」
スルリと長い指が肌を這う。触れられる部分が魔法のように熱を持ってくる。
擽ったいようなむず痒いようなじれったい感覚に、藤ヶ谷は目を閉じて耐えた。
「好きです」
「……っ」
耳に唇を落としながら、直接声を吹き込んでくる。
覆い被さられ、手を拘束されて動きにくい身体がピクンと跳ねてしまう。
杉野は繰り返し耳に口付け、濡れた舌で形を辿った。
「好き、好き……大好きです」
「お、れもっ」
心から溢れ出る様に紡がれる杉野からの愛の言葉。
藤ヶ谷も、ヒート中にずっと妄想しているほど杉野を求めていたのだ。
きちんと返事をしたいのに、高い声が上がりそうで声が上手く出せない。唇が首筋に滑り、皮膚の薄い部分に吸い付いてくる。
肌に当たる息も、熱い。
藤ヶ谷も、杉野に触れたかった。
「す、ぎの……俺、これじゃ何もできない……っ」
頭上の手を握ったり開いたりしてアピールすると、杉野が視線を上げて首筋に出来た紅を舐めた。
「じゃあ、約束してください。体を隠さないのと、声を抑えないって」
「え……」
「さっきからずっと我慢してるでしょう?聞かせてください」
図星を突かれて藤ヶ谷は唇を噛んだ。
一人の時は遠慮なく声を出せていたが、聞かれるのは躊躇われる。
一般的なオメガよりも低音の声の矯声を聞いて、杉野が萎えたら立ち直れない。
「でも……俺、声が……可愛くないし」
「この世の誰よりも可愛いですよ」
「……っ、は、恥ずかしいやつ」
サラリと自身を肯定されて、照れてしまう。
でも、心は軽くなって頷いた。
杉野には、全部曝け出しても大丈夫だと気持ちを落ち着ける。
手はすぐに解放されたものの、ここまで杉野にリードされていたためすぐに動けない。
戸惑いながら杉野の頬に触れて、そっと自分からキスをする。
「っ」
触れるだけのキスを繰り返していると、受け入れてくれている杉野の手が胸をいじってきた。
息を詰めて噛み締めそうになると、大人しかった舌が唇を割開いてきた。
「んぅ……ゃぁっ」
「ここ、好きですか?」
「……なん、で、分かる……っひゃん」
杉野は両手とも胸を弄り、突起を摘んで指先で弄んだ。
その動きに合わせて、藤ヶ谷はよがり声を上げ腰を揺らす。
ペロリと唇を舐める杉野は、藤ヶ谷の反応を堪能していた。
「柔らかいから触ってるのかなって」
「うー……っ」
悔しくて唸り声をあげ、藤ヶ谷は両腕で顔を隠す。
胸を自己開発してしまったなど、誰にも知られたくなかったのにあっさり言い当てられてしまった。
ヒート中もそうでない時も、藤ヶ谷は身体が昂れば独りで処理するしかなかった。
触りやすく快感を得やすい場所があれば、自分で弄るのも仕方がないだろう。
羞恥心で何も言わなくなった藤ヶ谷を見下ろしている杉野は、目を細めた。
「可愛い」
そう呟くと、ぷくりと熟れた胸の飾りを口に含む。
「ぁあっ」
吸ったり舌で嬲ったりと刺激を与えられ、藤ヶ谷は腰を浮かせた。
ビリビリと脳が痺れる感覚を紛らわせるため首を振る。
「ゃ、すぎのっ!それ、ダメぇ……!」
制止の声を上げて杉野の頭を掴み、胸から離そうとする。
しかしそれでも動かない杉野は、飾りを舌の上で転がしながら藤ヶ谷に目線をよこす。
「なんでですか?」
「手とちがって、なんかっ……ァアッ」
特に敏感な先端を甘噛みされて、声が裏返った。
自分でやるのと他人にされるのは違う上、舌での愛撫は初めてのものだ。動くタイミングが分からずに翻弄される。
「ぁっ……ぁっ」
恥ずかしいとはいうものの、快感には逆らえない。腰が揺れ、杉野の体に擦り付けてしまう。
藤ヶ谷は与えられる刺激に背中を浮かし、自分から胸を押し付け始めた。
「気持ちいい、ですか?」
「ん、……っ」
こくこくと素直に何度も頷く。
藤ヶ谷はとろりと溶けそうな目をして、濡れた唇から小刻みの呼吸を繰り返している。
「これだけでイけそうなくらい、きもちぃ」
腹の奥がズクズクと脈打つ。
杉野にされていると思うと、更に気持ちが良かった。
艶っぽい声と微笑みを見た杉野が、生唾を飲み込む音がする。
「やってみますか?」
「へ? ぁっ、やぁああっ」
ずっと手加減していたらしい。
音が鳴るほど胸の突起を吸われ、反対の胸は指に押し潰されて捏ねくりまわされる。
急激に強くなった愛撫を受け止めきれず、藤ヶ谷は足をバタつかせた。
「すぎ、すぎのまって……!むり、むりだってっ」
「大丈夫、ですよ」
「ひ、ぁっ……、ぁあ!」
楽しげに爪でピンと果実を弾かれて声を上げた藤ヶ谷の目に生理的な涙が浮かぶ。
睦言ではなく、本当に達しそうだった。
熱がどんどん迫り上がってくる。
さすがに、胸だけで限界を迎えたことはこれまでに一度もなく。
未知の領域だった。
「藤ヶ谷さん、イってください」
胸に杉野の声が響き、皮膚が震える。
「そんな、……イ、く……っ、うそ、だめ……まっ……アぁ!」
信じられない気持ちのまま、頭が真っ白になる。
足の指をぐっと丸めたと同時に藤ヶ谷はパジャマの中で白濁を放った。
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