94 / 110
第92話・気合い⭐︎
藤ヶ谷は今、大きなソファで体育座りをしていた。
髪や体からはふわりと石鹸の香りが漂っている。
勢いよくベッドルームに連れて行かれそうだったところ、拝み倒してなんとかシャワーを浴びたところだ。
交代でバスルームに向かった杉野を待っているのだが、身体そのものが脈打っていると錯覚してしまう。
顔どころか頭が熱く、とにかく落ち着かなかった。
美しい星空も、今の藤ヶ谷の目には入らない。
その原因の一つに、用意されていた服がある。
(山吹さん……っ、なんで俺のパンツこんなに気合い入ってんだよ……!)
クローゼットに入っていた「藤ヶ谷さん」と書いてあった籠には肌着は無く、白く滑らかな触り心地のパジャマと下着が一枚入っていた。
正面の面積が小さい生地は黒色で、その上に白いレースが重なっている。通常の臀部を覆う布の部分がなく、そこを支えるレース紐だけがある。
藤ヶ谷たちの勤める会社のランジェリー部門が、今月出した新商品のひとつだ。
同期が所属しているため、藤ヶ谷は見たことがあった。
(脱がなくてもイれられるって言ってたやつ……!)
藤ヶ谷は「そういう時のために」と際どい下着をいくつか所有していたが、実際に履く機会は少なかった。
もし履くとしても、体型にピッタリと合うジーンズなどを合わせる。
幅に余裕のあるパジャマだとスースーして心許なく感じた。
しかも、これから杉野に見せるのだ。
「お待たせしました」
独りで考え込んでいるところに声を掛けられて飛び上がりそうになる。
更に、返事をしようと顔を上げて固まった。
杉野は上半身に何も身につけておらず、下半身も黒いボクサーパンツしか履いてない。
風呂上がりで上気した筋肉質な体はまるで彫刻のように整っており、目が離せなくなる。
ピッタリとした下着は中心を形どっていて、嫌でもその中身を想像してしまった。
(なんでパジャマ着てないんだよ!)
と、思うものの答えは決まっている。
着る必要がないからだ。
自分の方が積極的に誘っていたくせに、いざ目の前にその気の杉野がいると急激に恥ずかしくなって顔に熱が昇る。
同時に、この状況に興奮もした。
「ま、待ってました」
言葉が見つからずに紡いだ言葉は我ながら間抜けで。杉野にもくすくすと笑われ、改めて横抱きにされて持ち上げられた。
「そんなに緊張しないでください」
今回は首に捕まることも出来ずに、手を自分の胸の前で握り締める。
体を硬くしている藤ヶ谷の耳元に杉野は唇を寄せてくる。
「取って食いますけど」
多く息を含んだ深い声。
背筋を通して腹まで震える心地がした。
「や、優しくお願いします」
目を合わせられず細い声で呟く藤ヶ谷に、杉野は微笑むだけで返事はしない。
ただ、リビングからベッドルームに進んでいくだけだ。
「お手柔らかにお願いします……っ」
不安になって縋るように顔を上げても、にっこりと笑みが深まるのみ。
藤ヶ谷は慌てて厚い胸を叩いた。
「す、杉野。返事し……っ」
希望する答えは得られないまま、杉野の唇の中に藤ヶ谷の言葉は飲み込まれた。
唇を吸われながら、柔らかいベッドに丁寧に下ろされる。
キスは気持ち良いのだと覚えた体は、すぐに緊張がほぐれていった。
ベッドが揺れて杉野も上がってきたことを感じながら、首に腕を巻きつける。
「ん、……っぅ」
やり方を覚えたとばかりに自分から舌を差し出した。
遠慮がちに辿々しく動くそれに、期待通りに熱い舌が絡みついてくる。
唾液を交換し合いながら、夢中になっていく。
「ぁっ……ふ……っゃ!?」
恍惚としていた藤ヶ谷の体がビクッと跳ねた。
杉野がパジャマの上から体を|弄《まさぐ》り、指先が胸の突起に触れたのだ。
「ん、……ぅっ」
藤ヶ谷の反応を見逃さず、杉野は同じ場所を何度も撫でる。
布で敏感な突起が擦れて、焦ったい刺激が藤ヶ谷を襲った。
たまらず体を捩って杉野の肩を押し、抜け出そうとするが。
杉野の体はびくともしない。
熱い口内を貪りながら、杉野はパジャマのボタンを外していき。
あっという間に藤ヶ谷の上半身は空気に晒された。
ともだちにシェアしよう!