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番外編・クリスマス・リベンジ(後編)
聖夜の愛の営みが一度で終わるはずもなく。
藤ヶ谷が煽れば杉野は応え、杉野が求めれば藤ヶ谷は頷き。
部屋の温度が上がるほど、何度も何度も愛し合った。
「プレゼント、家にあるの忘れてた……」
ベッドに仰向けに横たわり、花柄の羽毛布団をかけられた藤ヶ谷は、ポワポワとしている頭で呟く。
心は満たされて幸福感に溢れた気怠さに包まれていた。
だが、すぐには上手く動けず、顔だけ隣に横たわる杉野に向ける。
用意していたのは仕事の時も使えるようにとネクタイとネクタイピン、カフスボタン。
重い物ではなかったがすぐにつける物ではない。
杉野が泊まっていくと思っていたのもあり、家に置いてきたのだ。
(やっぱ家まで待てば良かったな……離れたくない……)
ホテルに入ってから、随分と時間が経っている。
この後はそれぞれ家に帰らなければならないと思うと、寂しかった。
考えていることが伝わったのだろうか。
愛おしげに藤ヶ谷の頭を撫でている杉野は、
「藤ヶ谷さんが落ち着いたら家に行きましょう」
と笑って、分かりやすく表情が明るくなった藤ヶ谷の髪に口付けてくれる。
そして、自分は床に放り投げていた鞄を拾い上げた。
藤ヶ谷からは死角になる場所で取り出した、白いリボンのついた小さなものをそっと握らされる。
何か、ゴツゴツとした硬い物だ。
ワクワクしながらすぐに手のひらを開くと、鍵があった。
胸が高鳴る。
藤ヶ谷は杉野の顔と手のひらの鍵を見比べた。
「こ、これ……」
「藤ヶ谷さん、俺と一緒に住んでください」
温かく大きな手に、まだあまり力の入らない手を包まれる。
藤ヶ谷は喜びで綻ぶ紅い口元を、骨張って男らしい甲に寄せた。
「プロポーズみてぇ」
「それはまた後日、指輪とします」
「ドラマみたいなロマンチックなの期待してるな!」
「……勉強します」
杉野が急に真顔になったので笑ってしまう。
よく読書している杉野だが、恋愛モノは読んでいるのを見たことがない。
一緒に映画に行く時も、何かドラマを見る時も。
番いになる前からずっとそうだ。
でも明日からは大真面目に、あまり触れたことのないジャンルを見たり読んだりするのだろう。
他ならぬ、藤ヶ谷のために。
(いっぱい勉強した後に、俺からプロポーズしたら……どんな顔すんだろ)
悪戯心がむくむくと膨らむのを感じつつ、藤ヶ谷は腕を伸ばして杉野を引き寄せる。
杉野は何も言わなくてもキスをしてくれた。
歩けるようになるまで、しばらくそうして体温を分け合う2人だった。
ちなみに、この後行った藤ヶ谷の家では。
「もう一つ、リクエストされてたプレゼントです」
と杉野が渡した「イケオジサンタ大集合!~2次元2.5次元3次元、あなたはどのサンタが好きですか?~」という写真集を飾る場所を探す藤ヶ谷の姿が。
「同棲より喜んでません?」
「それはそれ!これはこれ!」
番外編、クリスマス・リベンジ、完
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