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【六】初めての交わり

 香油の瓶からタラタラと、陰茎にぬめる液体を垂らす。指で十分にほぐしたルファの菊門へと、ヴェルディスは陰茎の先端をあてがった。ルファの体は、ヴェルディスを求めるように敏感に、柔軟に、蠢きながら反応を見せている。 「ああ!」  ヴェルディスが陰茎を挿入すると、その衝撃に、ルファが嬌声を上げた。ぐ、ぐ、と陰茎を着実に挿入していくヴェルディスは、何故己がこんなにも昂ぶっているのか理解できない。ルファを見ているだけで、衝動が止まらなくなる。汗がこめかみから垂れてくる。  ルファの全身もまた汗ばんでいて、触れ合っている肌は、互いに密着していた。 「あ、あ、あ」 「悪い、止まりそうにもないんだ」  抑制が全く効かないと思いながら、ヴェルディスは根元まで挿入した。そこで一度動きを止め、ルファの様子を伺う。ルファは震えていた。涙を零しながら、真っ赤になっている。 「あ、あ、あああ! ダメ、これ、ダメ! 体が熔けちゃう」 「ルファ様の中も熱い。それに絡み付いてくる」  緩慢にヴェルディスが腰を揺さぶると、ルファが首を振って泣いた。綺麗な茶色い髪も揺れている。ヴェルディスはルファの呼吸が落ち着くのを待ってから、ゆっくりと抽挿を始めた。 「んン、ぁ……あア」  ルファは訳が分からない。どうしてこのような状況にあるのかも、熱に浮かされてたから、定かでは無かった。だが、幼い頃からずっとヒーローだと感じ……好意を抱いていたヴェルディスの体温が好きでならない。正面から貫かれながら、ルファはヴェルディスの首に抱きついた。するとヴェルディスが荒々しく吐息した。 「動いて良いか?」 「う、うん……――あああ!」  ヴェルディスが激しく打ち付け始める。そうされると脳まで痺れたようになり、ルファの思考が真っ白に染まる。ヴェルディスが動く度に、全身がドロドロになるような感覚に襲われて、快楽からルファはむせび泣いた。  指では丹念にほぐされたが、初めて他者と性的な接触をする狭いルファの中は、ギュウギュウとヴェルディスの肉茎を締め上げている。内壁が、ヴェルディスの形を覚えこまされるように収縮している。ヴェルディスの陰茎で、ルファの中はいっぱいになってしまった。 「ああ……ァ……ぁ、ぁァ!」  その時、感じる場所を擦り上げるように貫かれて、ポロポロとルファは涙を零した。ヴェルディスの事以外、何も考えられなくなっていく。 「ひゃ、ッ、んァ……ああ! あ、ア!!」 「ルファ様」 「ルファで良いよ、っ、うぁ、ア」 「――それは、なりません」 「あ、あ、あ」 「……付け入るようで心苦しい。ただな、俺は、再会して一目会った時から、ずっと貴方の虜だった。この気持ちは、本物だ」 「あ、あ、ヴェル――っ、あ、あああ!」  緩慢だったヴェルディスの動きが、次第に早さを増していく。ぬちゃりぬちゃりと香油の音が響いている。ヴェルディスに貫かれる度に、ルファの肌の下を巡る鳥の羽ばたきのような快楽は酷くなっていく。 「あ、あ、もうダメぇ……ああああ!」 「出すぞ」  ルファの腰骨を強く掴み、ヴェルディスが激しく打ち付け始めた。感じる場所を何度も突き上げられて、ルファの頭は真っ白に染め上げられる。 「うあああああ!」  こうしてヴェルディスが放った時、ルファもまた果てた。二人の繋がっている箇所からは白液が溢れていく。一息ついてから、ズルリとヴェルディスが陰茎を引き抜いた。そして寝台の上で、涙を零しながらぐったりとしているルファを見る。ルファもまた涙で滲む目でヴェルディスを見上げた。それから静かに双眸を伏せる。するとヴェルディスがキスをした。触れるだけのキスだった。その感触に浸る内、意識を落とすようにルファは寝入ってしまった。  ――翌朝。  ルファが目を覚ますと、体が綺麗になっていた。ヴェルディスが処理をしてくれたらしい。久方ぶりに、何の夢も見ない目覚めだった。上半身を起こしたルファを、布団の上に座していたヴェルディスが見る。 「良かった、目が覚めて」 「う、ん……」 「体は辛くないか?」 「だ、大丈夫!」 「良かった」  そう言って微笑したヴェルディスが、あんまりにも綺麗に見えて、ルファは赤面した。どうしてこんな事になったのかについては、未だ理解が追いつかなかったが、決して嫌ではなかった。だが、己が嫌でなくとも、ヴェルディスはどうだったのか……ルファは慌てて寝台の上に座り直した。 「ヴェル、ごめんね……」 「? 何故謝るのです?」 「昨日の事は、僕が召喚獣と契約しちゃったから……なのかな、そうだからかもしれないんでしょう? その、本意じゃなかったんじゃ……嫌じゃなかった?」  恐る恐るといった調子で、小声でルファが問う。するとヴェルディスが目を丸くした。それから破顔すると、ルファに歩み寄り、その顔を覗き込んだ。 「嫌じゃなかった」 「!」 「というより――ルファ様が嫌だったと言うんなら分かる。俺が嫌なはずが無いだろう」 「どうして? お仕事だから?」 「違う。仕事上で嫌な職務なら、それこそ理由をつけてどうにかする。単純に俺は――ルファ様を可愛いと思って……この腕で抱きたいと思っただけだ」  その言葉に、ルファは赤面した。頬が熱くなる。そんなルファの綺麗な茶色の髪を、ヴェルディスが撫でる。ポンポンと叩かれるように撫でられて、ルファはこぼれ落ちそうなほど瞳を大きくした。 「ルファ様を、俺以外の誰にも見せたくないほど、魅了された」 「!」 「だから嫌なはずが無いだろう?」  優しいヴェルディスの表情に、赤くなりながら何度もルファは頷いた。  その後、ヴェルディスが朝食の用意をした。  豆のスープとパン、フワフワのスクランブルエッグ。キラキラ輝く朝食を、寝台から降りて席につきながら、ルファは凝視した。またしても見た事が無いくらい豪勢な朝食が出てきた。 「いただきます!」 「いただきます」  揃って手を合わせる。勢いの良いルファとは異なり、ヴェルディスは上品に手を合わせた。こうして二人の穏やかな朝食が始まった。銀色のスプーンで卵を口に運びながら、ルファは聞いた。 「ねぇねぇ、僕、五日間も寝ていて、今日で六日目なんだよね?」 「そうですね。どれほど心配した事か」 「ごめんなさい」 「謝る必要は無いですが。ルファ様は悪くないのだから」 「――それでも、心配してくれて……その、有難う」 「おそばにいるのは職務ですが、心配は俺の勝手な想いですので」 「誰かに、母さん以外に、心配された事なんて無いから……」 「今後は俺が、俺がいます。俺は常にルファ様の事を想っているから、ご自愛下さい」  その言葉にルファは照れくさくなった。それからハッとした。 「六日が経ったって事は、牛乳屋さんに、ミルクとバターを貰いに行かないと」 「王都に行けば、大量にありますよ」 「王都には行かないよ……召喚獣だって、ただの夢かも知れないし……」 「夢ではありません。抱いた俺の確かな実感として」 「……、……」  ルファはヴェルディスの言葉に赤面した。それからチラリと上目遣いでヴェルディスを見る。 「抱くと、分かるの?」 「いいえ。ただ、何も無ければ、あのようにルファ様に求められるとは思わない。寂しい事ですが」 「……それは、そうだけど……」 「ただ、何も無くとも、俺はルファ様を欲していたように思います」 「え?」 「俺に対しても気を抜かないように」 「え、え?」 「――それで? 牛乳屋ですか?」  ヴェルディスが話を仕切りなおした。ヴェルディスの言葉を咀嚼するので精一杯だったルファは、我に返り頷く。 「うん。牛乳屋さんに行くんだよ。村のみんなに支給されるから」 「では、お供しましょう」  こうしてこの日の行き先は決定した。食後、歯磨きをし服を着替えてから、ルファは靴紐を結ぶ。先に扉に手をかけたヴェルディスは、降りしきる綿雪を見ていた。 「酷い雪ですね」 「うん。この土地は雪が少ないから、積もらないとは思うんだけど……」 「手が冷えますね」  二人で外へと出た時、ヴェルディスが言った。それを聞いて、思わずルファは手を差し出した。 「つ、繋ぐ? そうすれば、ちょっとは温かいよ?」 「――そうですね。では、ルファ様の手をお守りするために」  少し間を置いて頷いたヴェルディスは、静かにルファの手を握った。ギュッと指と指の間に指が入る。恋人繋ぎをされて、ルファは照れた。力強く温かいヴェルディスの手の感触に、意識が占められていく。  牛乳屋までの道中の木には、熟れた柿がなっていた。冬に、鴉のために残す果実だ。綿雪が二人の頭の上に時折積もる。雪が水となって濡らした道を歩いて暫くし、牛乳屋へと到着した。ルファが扉に手をかける。 「なんだ、ルファか――……それと?」  牛乳屋の主人は、続いて入ってきて扉を閉めているヴェルディスを見て、片眉を上げた。 「余所者? 余所者のルファに余所者の客か?」  どうやらヴェルディスの纏う装束に刺繍されている王国騎士団の紋章を、店主は見た事が無かったらしい。その為か、鬱陶しそうな顔をする。 「さっさと出て行け。今回の牛乳とバターだ。どうせチーズは買えないんだろう?」  その言葉に、ヴェルディスが顔を上げた。 「チーズもあるのか? ならば、貰おう」 「身なりは良いが、払えるのか?」 「いくらだ?」 「五百ガウスだ」 「では、五つ貰おうか」  するりとヴェルディスが述べると、牛乳屋の主人が幾ばくか驚いた顔をした。それからルファとヴェルディスを交互に見る。 「構わないが――まさかこの村で卑しい男娼仕事をしているんじゃないだろうな?」 「え? 男娼?」 「そうでなければ、ルファの連れがこんなに気前が良いとは思えない」  どこか侮蔑混じりに告げ、店主が卑しく笑った。  その瞬間、ヴェルディスが剣を抜いた。 「発言を撤回しろ」 「ひ」 「ルファ様への侮辱は許さない」 「な、なな」  店主が床に尻餅をついた。ルファは慌ててヴェルディスの服に触れる。 「いつもの事だよ。僕は大丈夫だから!」 「いつもの事? ならば尚更見過ごせないな。名は?」 「い、いいから!」 「良くはありません。ルファ様はお立場をご自覚下さい」  鋭い瞳をしているヴェルディスの威圧感に、ルファは困惑して涙ぐんだ。店主は震えながら立ち上がると、チーズに触れる。 「お、お、お、おまけに、チーズを全部……ですから、命だけは……」 「結構だ。定価で良い」 「……も、申し訳ございませんでした!」  その後、牛乳とバター、チーズを受け取り、ルファとヴェルディスは店を出た。ヴェルディスは片腕で袋を抱き、もう片方の腕でルファの体を抱く。 「いつも、ああだったのか?」 「う、うん」 「――許せないな。今後は、あのような輩、近寄らせない」 「ヴェル……」  力強いヴェルディスの腕の温もりを感じながら、守られた事など記憶に無いルファは涙ぐんだ。 「これまで、辛い思いをしていたんだな」 「ううん。これが、普通だったから、その……」 「決して普通ではない。今後は、俺が守る」  そんなやりとりをしながら、二人はルファの家へと帰宅した。するとメルクが来ていた。 「いやぁ鍵が無いから、勝手に入らせてもらったよ。それにしてもルファ様のお住まいにしては貧相だねぇ」 「勝手に入るな」  メルクに嘆息しながら、テーブルにヴェルディスが荷物を置く。椅子は二つしかないため、ルファは立っていた。ヴェルディスがヤカンを火にかけ始める。 「今日の診察で体調が良好だと判断したら、王都への移動や転移の許可をだそうと思って来たんだけれどね。いやぁ、村の宿にも飽きてしまったよ」 「すぐに診察してくれ」  ヴェルディスがそう言うと、メルクが頷いた。そして椅子から立ち上がり、突っ立っていたルファの前に膝をついた。魔導具の聴診器を下げている。 「少し胸の音を聞かせてもらうよ」 「は、はい!」  恐る恐るルファがシャツを捲る。その下から聴診器を入れて、メルクが透き通るような眼差しをした。 「うん。肺の音も大丈夫だし、相変わらず風邪の兆候も無い。体型からして貧血を疑うけれど、それも移動には関わらないから無問題だねぇ。ルファ様は、今日にでも王都に旅立てるよ」 「……だけど僕、やっぱり自分が王族だなんて信じられなくて」 「まぁ、いきなり言われたらそうかもしれませんねぇ。だったら、だからこそ! 違うか否かを王宮で判断してもらったらいかがですか?」 「え?」 「なにせこのまま、王国一の騎士と名高いヴェルディスをここに置いておくわけにもいかないでしょうし」  それを聞いて、ルファは小首を傾げた。それから小声で問う。 「王国一の騎士?」 「――アルフ殿下は、激戦地に率先して向かう、王族ながら武勇で名声を得た騎士で、その近衛であり、常に副官として付き従っていたヴェルディス=ベリアーティはこの国の英雄です。何度も建国パーティの時に、同時に帰還を祝う宴も行われたものですよ」  するとメルクも小声で返した。ヤカンの前にいるヴェルディスの耳には届いていない様子である。 「国は、王宮は、ヴェルディスさんの帰りを切望していますからね。ただ、ルファ様を探したいというのがヴェルディスさんのたっての願いだ。誰にも止められないほどで、その任に付けないのであれば自力で探すとして、一時は騎士団を脱退するとまで述べた彼ですから」 「……ヴェルが……」 「本当にルファ様が見つかって何よりだ。早く、ヴェルディスさんを連れ帰ってあげて下さいね」  その言葉にルファはどうして良いのか分からなくなった。  そこへ、ヴェルディスがカップを三つ運んできた。 「ルファ様、座って下さい」 「だけど椅子は二つしかないし」 「私目が立ちますので」 「……」 「ルファ様、ヴェルディスさんはこう言ってる事だし、遠慮は不要だよ。そもそもここは貴方の家なのだからね」  こうしてルファは椅子に座った。メルクと対面する位置に腰を下ろしてから、立っているヴェルディスを見上げる。すると胸が疼いた。ヴェルディスの優しさが、胸に響いてくる。  その後、お茶を飲みつつ、ひとしきり雑談をしてから、メルクは金色の髪を揺らし、帰っていった。

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