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【十】閨の講義
――その日の夜から、閨の講義は始まる事となった。
念入りに湯浴みをしたルファは、薄手の夜着を纏って、寝台に座っていた。そこへ、いつもよりも軽装で、ヴェルディスが訪れた。そして静かに、寝室の内鍵を閉める。手には香油の瓶を持っていて、ルファの元に歩み寄ると、ベッドサイドに瓶を置いた。
「ルファ様。改めて、閨の講義を申しつかりました」
「ヴェルで良かった……」
「俺もだ。他の誰かがルファ様を抱くと思えば気が狂いそうになる。他の誰にも触らせたくない」
ヴェルディスがルファを抱きしめる。ルファはギュッと目を閉じて、ヴェルディスの胸板に額を押し付けた。柔らかなルファの髪を撫で、ヴェルディスがその額に唇で触れる。
こうして夜が始まった。
「ンん、ぁ……あ、あ……」
一糸まとわぬ姿で、ルファはうつ伏せになり、シーツを握り締める。猫のような姿勢になったルファの菊門に、香油をまぶした指を、ヴェルディスが進めている。三本の指先がバラバラに動き、いつもよりゆっくりとルファの中を慣らしていく。それがもどかしくて、ルファは涙ぐんだ。
「あ、あ、ヴェル……早く、あ、ああ! 体が熱い……う、ぁ」
今日は、ヴェルディスに抱きしめられた時から、肌の内側に鳥の羽のざわめきのような快楽が息づいていた。だから尚更、体が熱くて堪らない。じわりじわりと昂められていると、全身が炙られているような感覚になる。
「講義だからな。じっくりと体が快楽に慣れるようにした方が良い」
「やだ……やだ、ぁ……ああ、熱い。ヴェル、早く……っ、んぅ」
「煽らないでくれ。俺も抑制が効かなくなりそうだ」
「あ、ああ!」
その時、ヴェルディスが指を引き抜いた。そして後ろから、既にそそり立っていた陰茎を、ルファにゆっくりと挿入した。緩慢と、しかし実直に奥深くまで貫かれて、ルファは快楽に涙を零す。
「あああ! 気持ち良、っ、あ、ああ……あ――ッ!!」
ルファの体がじっとりと汗ばみ、太ももが震えている。しなやかな白い体が上気し、ほんのりと赤く染まっている。燭台が二人の影を室内に伸ばしている。香油がぐちゅりと音を響かせる。奥深くまで貫いては、ギリギリまで引き抜くという動作を繰り返しているヴェルディスは、荒く吐息してから、ルファの背中に体重をかけて押し潰すようにする。そうしながら、ルファの耳の後ろを舌でなぞった。
「ひゃ、ッ、あ、あああ!」
ルファの陰茎がシーツに擦れている。先走りの液が、白いシーツを濡らしている。ヴェルディスが腰を意地悪く揺さぶった時、ルファがむせび泣いた。
「いやぁ、ぁ、もっと、もっと動いて……ああ、あ……あ、やぁ!」
ビクビクとルファの体が震えている。全身が熱くて呼吸が苦しいほどだった。自分の吐息にすら感じてしまい、ポロポロとルファは涙を零す。
「ダメ、ダメ、イく、あ、イきたい……あ、あ、動いて――ひ!」
ルファが懇願した時、ルファの細い腰を掴んで、激しくヴェルディスが責め立て始めた。頭が真っ白に染まったルファは、その衝撃で果てた。
「あ、ああああ!」
しかしヴェルディスの動きは止まらず、連続でルファの体を絶頂に導いていく。激しく感じる場所ばかり巨大な先端で穿たれて、ルファは喉を震わせながら、今度は中だけで果てた。長い絶頂感が、ずっと全身に響いていて、その快楽が怖くなって何度も頭を振る。怖くはあったが――心は満たされていた。ヴェルディスと一つに繋がっているというのが、幸せでならない。その時、ヴェルディスがルファの中に放った。結合部分からは、ドロリと白液が、香油と混じりながら垂れていく。
ぐったりとしていたルファを、ヴェルディスが抱き起こし、今度は後ろから抱きしめるようにした。そして片手でルファの陰茎を握りながら、もう一方の左手ではルファの乳頭を捏ねるように弄ぶ。
「ぁ……ァ……」
達したばかりで敏感なルファの体を、ゾクリと快楽が走り抜けた。
「夜はまだ長い。講義は始まったばかりだぞ?」
ルファの耳元で、囁くようにヴェルディスが言った。トロンとした瞳で、ルファが体をヴェルディスに預ける。ヴェルディスはルファの陰茎を扱きながら、ルファの首筋を甘く噛んだ。
「ひゃ、ッ」
「ルファ様の体は綺麗だな」
「ぁ、ぁ、ァ」
それからヴェルディスは、ルファの脇腹を支え、上に乗せるようにして、下から挿入した。これまでには感じた事が無いほど深くまで貫かれる形となり、ルファは喉を震わせる。
「あああああ! や、深い、あ、ああ! あ――!!」
前立腺を擦り上げられ、結腸を押し上げるように貫かれた瞬間、ルファは何も考えられなくなった。ルファの陰茎は反り返り、再び透明な雫を垂らす。後ろから抱きしめるようにしてルファの両方の乳首を摘みながら、ヴェルディスが腰を揺らす。
「うああああ!」
その夜、何度もヴェルディスはルファの中に放ち、ルファの体は白液で濡れた。
いつの間に理性を飛ばしたのかは、ルファ自身にも分からない。
気づくと――いつもの夢を見ていた。
「また卵ができた。その調子だ」
「ベリアル……」
巨大な鳥を見ながら、ルファは照れた。いつの間に己が意識を失ったのかも、覚えていなかった。
「幸せになるのだぞ」
「うん。僕、今すごく幸せだよ」
頬を染めながら語るルファを見て、ベリアルは穏やかに笑ったようだった。
次の瞬間、ルファは目を覚ました。するとヴェルディスに腕枕をされていた。
「おはようございます、ルファ様」
「おはよう……」
酷く喉が渇いていて、指先までもが重い。『夢』の中では体が軽かったから不思議な気持ちになりつつ、ルファはヴェルディスに抱きついた。そんなルファの髪の毛を撫でてから、ヴェルディスは体を起こして、ベッドサイドにあった水をルファに差し出した。そしてルファに静かに飲ませる。
「昨晩は無理をさせてしまったな。止まらなかった」
「……ヴェルなら良いんだよ。ヴェルが好き」
その日は、昼過ぎまで、ルファはヴェルディスと共に寝台にいた。
午後になってからルファは湯浴みをし、遅い食事をした。その間、ヴェルディスは壁際でルファを優しい眼差しで見ていた。食事やお茶の用意をした侍従のマーク達は、二人の様子を眺めている。この日の夜も、閨の講義は行われた。
それから――夜毎、ルファはヴェルディスと共に眠った。ヴェルディスの腕の中で、頬を緩ませ、快楽に涙する日々だ。日中は、マーク達に、テーブルマナー等を教わった。家庭教師役も兼ねている、貴族の子息だったらしい。
「どうぞ」
マークはカップをルファの前に起きながら、微笑した。それから苦笑した。
「ヴェルディス様が羨ましいですね」
「え?」
あまり声をかけられないので、ルファは驚いた。ヴェルディスが食事で控えの隣室へと向かった時の事である。ルファが首を傾げると、マークが続けた。
「本当は、ここにいる侍従役の貴族が、ルファ様に講義をする教師役の候補だったんですよ」
「え!?」
知らなかった事実に、ルファは冷や汗をかいた。ヴェルディス以外と閨を共にするなど、考えられないからである。マークは、そんなルファを見ると、スっと目を細めて笑った。
「実際にルファ様を拝見して、こうしてお話させて頂くと、悔しくなりますね。もし迎えに行ったのが、僕だったのならば、と」
「べ、別に、迎えに来てくれたからヴェルが好きなわけじゃ……」
「本当に?」
「本当です!」
ルファは断言した。いつ好きになったのかと問われたならば、明確には断言できないが、幼き日からのヒーローでもあったヴェルディスの優しさに触れる内に、その人柄が好きになったのだと、今では強く感じている。ヴェルディスの中身を知る度に、どんどん好きになっていくからだ。
「それはそうと、国王陛下がお呼びです。参りましょう」
「え? あ、はい。ヴェルを呼ばないと――」
「ヴェルディス様はお食事中ですから」
それを聞いて、ルファは俯いた。確かにヴェルディスにも休息は必要だと感じる。しかし反面、ヴェルディスから離れて行動して良いのか不安に思った。疑問でもある。
「行きましょう」
しかしマークが強い口調で言った。周囲の侍従達も、当然の事であるという顔で頷いている。明らかに皆、ルファが立ち上がるのを待っている様子だった。
「分かりました」
心細かったが、ヴェルディスに頼ってばかりではならないと考え、ルファは小さく頷いた。こうして、マークを先頭にし、侍従達と共に、ルファは部屋を出た。豪奢な廊下を少し歩くと、三つ隣にあった部屋の扉をマークが開けた。
「ここですか?」
謁見の間でも玉座の間でも無い。しかし王宮の内部の構造について詳しく知らないルファは、促されるままに中へと入った。そして首を傾げた。室内には人気は無く、巨大な寝台があるだけだったからだ。侍従達が全員中に入った後、マークが施錠した。その鍵の音にルファが振り返ろうとした時、ルファは後ろから羽交い締めにされた。
「!?」
「どうせ肉欲に溺れたんだろう?」
マークがせせら笑うように言った。他の侍従達も卑しい笑みを浮かべ、ニタニタと笑っている。四人いた侍従達が、ルファの服を破くように剥ぎ取った。そして取り出した布紐で、破れたシャツを纏うだけになったルファを縛り上げる。マークはぎらついた瞳をしながらそれを見下ろしている。ルファはそのまま、侍従達に寝台へと押し付けられた。
「やだ、止め――ヤダ! 離して!」
一人がルファの耳の中に舌を差し込み、もう一人はルファの頬を舐める。一名がルファを後ろから抱きしめるように拘束し、最後の一名はルファの太ももを持ち上げて陰茎をまじまじと見ている。その光景にニヤつきながら、マークが言った。
「さぞ具合が良くなっているんだろうな。毎晩あれだけヤってればな」
「離して! やだ、嫌だ!」
「ここが何の部屋か分かるか? ここが本来の閨の講義をする部屋なんだよ」
マークはそう言うと、戸棚から巨大な張り型を取り出した。ルファが恐怖で凍りつく。その前で張り型に舌を這わせたマークは、残忍な笑みを浮かべた。
「僕達がたっぷり教えてあげますよ、今日は」
「嫌だ、嫌! 助けて!」
――扉が蹴破られたのは、その時の事だった。
「ルファ様!!」
入ってきたのはヴェルディスだった。焦る様子だったヴェルディスは、その場を一瞥し、剣を抜く。
「どうして此処が――」
マークが狼狽えたような顔をした。侍従達が震え上がっている。しかしその声が響き終わる前に、ヴェルディスがその場にいた全員を気絶させた。そしてルファに走り寄ると、布紐の拘束を解き、己の上着をかける。
「ご無事ですか? いいや、無事ではないな。俺が迂闊だったばかりに」
「大丈夫……」
「何をされた?」
「縛られただけで、でも……怖かった」
涙ぐみながら、ルファがヴェルディスに抱きついた。その体に腕を回してから、ヴェルディスがルファを抱き上げる。それから、続いて駆け込んできた他の騎士に告げた。
「ルファ様に乱暴を働こうとしていた。拘束を」
「なんという事を……」
「ルファ様の事をお部屋にお連れする。後の事は任せる」
「ああ。すぐに拘束し、陛下にも報告しておく」
ヴェルディスは他の騎士達にマークらの処遇を任せると、人目を避けるようにして、ルファを抱き上げたまま部屋に連れて行った。ヴェルディスの胸元の服を掴みながら、ルファは震えている。
部屋に戻るとヴェルディスは、ルファを静かにソファに座らせた。そしてクローゼットから新しい服を持ってくる。ガウンを受け取ったルファは、ヴェルディスに上着を返して服を着ながら俯いた。
「……っ」
すると涙が下に垂れた。ルファの悲愴が滲む表情を見るのが辛くて、ヴェルディスが強くルファを抱きしめる。そして片手でルファの額を自分の胸板に押し付けた。
「俺は自分が不甲斐ない。すぐに気づく事が出来なかった。階段を守る騎士達が目撃していなかった事と、この階にある部屋が限られていたという幸運がなければ、守る事ができなかったかもしれない。あの部屋を選んだ奴らが浅はかだったのが幸いした」
「違うよ、迂闊だったのは僕で……僕が悪いんだよ……ごめん」
「何故ルファ様が謝るのですか?」
「体に触られた」
「それだけですね?」
「うん……頬っぺを舐められて……」
「他には?」
「縛られた。嫌だった」
「ご無事で良かった。怖かったのは分かるが――兎に角、ルファ様がご無事で良かった。謝らないでくれ。目を離した俺のミスだ」
ヴェルディスは指先でルファの涙を拭うと、額にキスをした。それから唇に触れるだけの口づけをする。
「ただ、今後は、必ず俺を伴って欲しい。何処へ行く時であっても」
「うん。そばにいて……ッ……」
その後ルファは、ヴェルディスの腕の中で、ひとしきり泣いたのだった。
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