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第5-5話

「催花? こんなこと……!」  水に濡らし色をつけるのが催花のはず。耐えきれないほど熱い舌が、まるで味わうように青の水茎を舐め上げて、その先をしゃぶりついて吸い付かれれば感じたこともないほどの気持ちよさに、快楽の渦に引きずり込まれる。これではただ嬲っているだけではないかと、青は色立つ。  すると花径を押し開いて進んでいくその感覚に、ぶるりと震えた。溶けるほど熱い花の径に、待ち望んでいたとばかりに潮が零れる。指、もしくはギューの筋立てた穂。どちらでも構わないと思えるほどの気持ちよさ。  青は混乱する。なぜ、どちらでもいいなどと。ギューの面影を清瀬に重ねて、まさかそれを動かして欲しいなどと思ってしまったのだ。  相手はギューだというのに。 「ギュー、よせ! 抜いて――!」  大きく息を吸いながら、青の上で蠢くギューの身体に手を突っぱねる。清瀬にたてた操を、こんなところで捨ててなるものか。  深く穿つそれを感じながら青は必死に身体を伸ばし、テーブルの上の瓶を引き掴んだ。 振り上げて、ギューを睨み付ける。 「抜け、ギュー! それ以上勝手をするのなら、瓶を割る!」  張り裂けんばかりの怒号に、ギューはぱっと身体を離した。青は確かめようと、ふらつく身体を起こしてギューの髪を引き掴む。 「何を入れた!」 「青が想像しているもの」  白々しく答えるギューに青は更に憤る。快感に震えた身体中の熱が頭に逆上せ上がるようだった。ギューの胸ぐらを引きつかみ、押し倒したその上にのし掛かると、湧き上がる激情に戦慄いた。  抑えることができなかった。  今になって押し込んできた麗への怒りが身体を突き抜け、青は激昂に身を任せて吠え猛る。 「俺の身体を、なんだと思っている! 種などもうとっくにない! 花さえ散ったのだ! 結ばれるはずのないこの思いさえも!」  朽ちてしまえばいいと呪ったのは自分だ。望んだにも関わらず急に惜しくなるとは、どれほど身勝手な男か。 「最悪だ。こんな男を清瀬が愛するはずがない」  白状すれば、葡萄のつるのように絡まって解けないほどの思いを清瀬に抱いている。どれほど深い思いか清瀬は知らないのだ。他の男の手に扱われるくらいなら、いっそ身を投げてしまおうと思うほどの強い思い。出液と同時に果てようと誓ったこの感情はどこへあてたらいいのか。  目頭が熱く焼けるようだった。青は目が回りながら寝台の上に身を投げた。  苦しくて仕方がない。怪士に捕らわれて、もうどうなったって構わないと思ったのだ。殺してくれればと。  それだというのに、清瀬は追いかけてきた。  助け出そうと伸ばした手に、どうしがみ付けという。花が散ったと知れば、清瀬さえも青を用なしと思うだろう。耳心地のいい言葉ばかり囁く彼が、怖くてたまらない。その腕に飛び込めるはずがない!  萩氏の屋敷に戻ったとして、待ち受けているのは命を奪われるよりも醜い行為なのだ。紫の婿に身体を委ね、卑しさに染まれというのか。  他に選択肢などない。麗からも清瀬からも逃げ出した。  こんなにも煩わしいと思ったことはない。あの日、恋情を起こした清瀬の手に抱かれるのなら悪くないと青の心は悉く落ちた。それなのに、  ――種がなくては、誰も俺を愛しはしない。 「清瀬……。振り向いてほしい。俺だけを――」  真っ赤に(ひら)いていく青の身体は色を催す景色である。白い肌に浮き上がる血の管は平らな乳房さえも締め付けるようで、強く張り出たその先の蕾を艶やかに際立たせる。まるで魚のなまめかしい腹のよう。もしくは心を躍らせる獲物の、滴るような妖艶さであるように思われた。眩むほどの色香に思わず血が上り、ギューは口元を覆う。  舌を重ねてじっくりと味わい、淫らに零れるそれをなめ、色情に狂わせるほどの匂いに酔いしれながら、我も失うほどの快楽を暴いてやりたい。堪えきれず、恥部さえ剥き出しにして貪るように腰を動かすのだろうかと、好奇心は募るばかり。その衝動を抑えるのが容易であるはずがない。乱れる彼を想像するだけでギューの下は熱気を帯びる。  大きく息を吐き出し、ギューは汗に張り付いた前髪を掻きあげた。 「落ち着けよ。催花させようとしただけだ。青の種が欲しいとか、そういうつもりじゃない」  袖を脱ぎつつ、この姿態をヤンにだけは見せないと決め、彼の身体に上着を掛ける。 「催花なんて、意味はない。もう花は散ったんだ」 「花は手折ったとしても根は残るものだろう。種が弾けたわけじゃないなら再び花をつける。いっそまるごと愛してやればいい」  青はゆっくりと目を開く。あぐらを掻いた膝に頬杖をつくギューの姿を目にした。荻のような髪は柔らかく彼の頭を包み、その隙間から見える鋭い眼差しは相変わらず獣のように冷たい。その水を注ぐような瞳に、乱れ打っていた呼吸は落ち着きを取り戻す。  忽ち青の顔は憂いに沈む。 「花などいらないと思うのに、その花さえなくては清瀬に近づくことさえできない。どうすれば、この思いから逃れられるのかもわからない。捨ててしまいたい」

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