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第11-6話 終
口ではやめてほしいと言いながら、もっと欲しいのだと、青の身体は熱くなる。
指だけでは物足りない。だが、そんなこととても言えない。
清瀬の首にしがみつき、熟れた身体を押しつけた。水茎を彼に擦り付けて、快楽を得ようとする。清瀬はその姿に本能が擽られるが、種をおろした花に負担があってはならない。
「青」
感じながらも逃れようとする青の姿は愛おしくてたまらない。彼の細い腰を持ち上げ、肌をなぞる清瀬の指が腹を伝い、股を擦り、清らかな陰を掬う。
再び忍び寄る指先に、青は思わず身体を反らす。
清瀬は唾を飲んだ。
どうしたっておさまらない。
自分にだけ見せつけられる彼の表情は、事もなく清瀬に心を許している証である。
充たされていく。
清瀬に愛を伝える青のからだは暖かくほだされて、清瀬だけを受け入れるのだ。そのからだの肉をどうして手放すことなどできるものか。
薄く注ぐ春の陽ざしに、松に結びつけたフウセンカズラは弾けて花が咲いた。
実を結ぶ影に、雪は忽ち融け、氷は水流を激しく押し流しはじめる。煙っていた冬の空はうぐいすの声によって押し開かれて、掲げる花枝は百花を綻び、桜花は匂いを上らせた。
万の花が咲き乱れ、千の草木が緑に栄える。その弥生い茂る豊かな大地に雨が降り出す。
蕾の開花を促す催花雨は、怪士によって忽ち花腐しの雨となる。
降りだした雨は止むことなく湿地に注ぎ、湖は瞬く間に水かさを増して草木をのみ込むほど。
戦に夢中の武士たちは、萩鹿と関係なく互いに押しのけ合って崖を駆け上る。その影を追う波頭は悉く高く波を打ち、麗は呆然と撤退を指示し、窪地を眺め下ろした。
沈んでいく遷都の地をぼんやりと見つめながら、その水面の中央に、七匹の魚に囲まれた蓮の葉の上で、つるむ二人の艶姿を目にする。霞の中に包まれていく青に、麗は指の隙間からこぼれ落ちそうになる宝玉を拾うように咄嗟に手を伸ばした。しかしどうしたって届きはしない。すでに麗の手中にはないのだ。
花霞にくすむ空を見上げれば、その影で苦しいほどに追い求め続けた一つの花の幻をみたような気がした。
面影はすでに煙の中に閉ざされている。もう一度見たい。もう一度、触れたかったと、崩れる顔は生気を失い、その姿は息を吐くごとに小さく老いぼれていく。爽も同様に落胆を示し、垂れてしぼんだ目は麗の萎びた体つきを眺めるだけである。
ヤン・ギューは押し寄せる水の中、凪を背に負い、木の上へと登っていく。男はかつての姿をとりもどし、しかしその息が彼らの耳に触れることはなく、春めく風に抱かれながら、青々と茂る草の中に還っていく。
その一方で、紫はベベに抱えられながら遠くに見える二人の姿にうっとりと吐息を漏らした。
ベベは握る拳に目を落とし、蠢く種に手を開く。小さく割れた種の隙間から若葉が覗いていた。そのときはじめて、これが街の種と知るのである。とんだただ働きをしてしまったと思いながらも、抱き上げた紫のことを思えば足りないほどかと、ほくそ笑む。
漲る水面はヤン・ギューの家をのみ込み、果たして雨は、梅雨となり、睦む二人の戯れが飽きるまで降り続くのであった。
<終>
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