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第4話 長い
「それにしても、長くない?」
「んんっ、たとい、いい匂い」
くんくん、すーはー。
いや、話聞けよ、シュイ。散々俺の蜜壺の中に出しまくったシュイはようやっと俺のナカからずるんと雄根を抜いてくれた。すると見事に伸びていましたとも。ぶっとくて長い蛇の2本の雄根が。
なお、先程の発言はこの2本の雄根に向けた言葉ではない。
シュイの寝室、いや宮全体が土足禁止なのだそうだが、今ならそのわけがよく分かる。シュイの寝室は施設育ちで、高校入学と共に2人部屋から1人部屋になった俺の私室の4倍はあった。まぁ、高校を卒業したら働く予定で、質素なアパートで一人暮しのはずだったのだが、その前に召喚されてしまったっけ。
それにしても、その寝室の絨毯の敷かれた床全体を埋めるように蛇の尾が埋め尽くしていたのである。それも間仕切りのあるところまでで。
因みにその先にもまだ部屋があり、円形にくり貫かれた壁の向こうには執務室とおぼしき机などが見える。さすがにそこまでは行かないのだけど。
「あの、個人的に巨大蛇を飼ってるとかじゃなくて、このしっぽは全部シュイのか?」
少なくとも、蛇の頭は見当たらないから。
「ん、そうだ」
「蛇族ってみんなこんなに長いの?」
「いや、成獣なら普通2~3メートルかな。母上もそうだ」
「じゃ……何でこんなに」
「うん、父上の竜の血が入っているからかもしれない。突然変異だな。あと、獣人国には元々竜人がいて、王家はその血を引いていた。いつしか竜人は絶滅し、王家も獣人が継ぐようになったが、おばあさまの竜人の血を取り入れたから、先祖返りのなんたらが働いたのかもな」
なんたらってオイ。曖昧だな。
まぁ、尾が長いってことなら、こちらの世界の竜のイメージは西洋風じゃなくて東洋風なのだろう。城のあちこちにも東洋風が生きている。
「この世界の竜人はどうしていなくなっちゃったの?」
「さぁ?獣人の血の方が濃かったのか、どうなのか。力としては竜人の方が優れている。優れているからこそ、血が薄く、遺伝が弱くなってしまったのかもしれない。そしてこちらの世界の竜人はもはや伝説の存在だ。よく分かっていない。過去竜人が召喚されてこの世界で子孫を残してもみな獣人として生まれてきた。だが、そうなれば父上の例は稀有なものだな」
「そう言えば、確かになぁ」
かなりの低確率で竜人の遺伝子を受け継いだってことか。
「ねぇ、これで外出るの大変じゃない?」
ずるずるこれ引きずってくのか?一体何メートルあんだよ。
「蛇族は人間のような2本の脚に変化できるから、それで行くか、縮める。3メートルくらいに」
「縮められんだ、これ」
ベッドの傍のシュイのしっぽに指を伸ばす。あ、ホントに蛇皮――とろっ
「あ゛――――――っ!?またぬるぬるぅっ!?」
「あぁ、それは媚液だ。私の唾液、精液もそうだが、私は鱗から媚液を分泌するのだ。それも発情期に番に触られたら、思わず出てしまう」
んな――――っ!?
それで、昨夜も!?
「そ、その時から、分かってたの?」
俺が運命の番たと。
「当たり前だ」
そう言ってシュイが俺の頬に口づけを落としてくる。
「あ、うぅっ」
「かわいいな」
うぅ~っ、シュイは俺をでろっでろに甘やかす気なのか!?そうなのか!?
「シュイさま、朝から何してんです?」
そこへ、執務室と見られる円形にくり貫かれた仕切りの向こうからひょっこりと青年が顔を出してきた。うおぉいっ、あっちもイケメンっ!
暗い茶色の髪に赤い瞳、頭に図太いダークグレーの角を生やした好青年だ。
「ん、ロシュか。どうした」
ロシュさんと言うらしい。
「どうしたじゃないです。それ人間ですか?もしかして召喚者?何でベッドに連れ込んでんですか」
ロシュさんも蛇族のようで、下半身の蛇の尾でするするとシュイの蛇体の海を越えてこちらにくる。すごい、俺なら足取られてたっ!いやむしろシュイに蛇体をからめられて捕まってたわ。これ間違いない。
「あぁ、蛇腹 縦。私の運命の番だ」
う、運命の番って、堂々と言うんだから。思えば、イルもそうだ。俺の時は常に疑問顔だったのに、竜欧院かさねの時は堂々と運命の番と称していた。
「あぁ、イル殿下が運命の番と呼んでいた召喚者の。しかしその後間違いだったとして別の召喚者を運命の番として迎えたんでしたね」
その言葉にドキリとする。事実だけど、ここでも俺はシュイの運命の番ではないと言われるのだろうか。
「シュイさまの運命の番だったのですね。イル殿下も運命の番と偽るとは、良い度胸ですね」
「そうだ、良い度胸をしている」
ビクッ。なんだか2人に迫力がある?
それに、
「イル、俺を運命の番と偽っていたって?でも神殿にお告げが会ったんじゃ?」
守護者の運命の番を召喚すると。
「それは、恐らくトゥキさまの運命の番でしょう。イル殿下のではなかったと言うだけです。昔から、守護者の運命の番以外にも召喚者は来ます。たまたま同じタイミングでたといさまが召喚されてしまっただけでしょう?イル殿下も運命ではないと言うのなら、そう告げれば良かったのです。獣人は運命の番に出会うと分かると言いますが、王族や守護者と言った血の濃い獣人は運命の番だったら更に良くに分かるといいます」
ロシュさんの言葉にハッとなる。そう、言えば。イルはずっと俺を運命の番だと思っていなかった。けれど運命の番だと告げた。だから俺は偽物の番と呼ばれるまでになって、しまいには本物の番が来て追い出されたのだ。
「しかも、陛下の前で運命の番を迎えたと、たといさまを紹介してしまったのでしょう?」
うん、まぁ。イルに陛下への報告が必要だと連れて行かれたのだ。
「その時ちょうどシュイさまは冬眠中で謁見の間へは脚を運ばずこちらで執務をしてらっしゃいましたからね」
「冬眠など放っておいて、行けばもっと早くにたといをぐちょぐちょにできたのに」
いや、オイ。俺をぐちょぐちょに発言はどうかと思うが。
「でも、冬眠は?しなきゃ行けないんじゃ?それに眠るんだろ?」
「冬眠と言っても、完全に眠る訳じゃありません。眠いのですが1日の三分の二は起きていますよ。シュイさまの場合はその間に最低限の執務をこなされます。完全に寝てしまうと、王太子ですから。国が回らなくなります」
そう言われてみればそうか。シュイは冬眠期で、そうじゃなかったらもっと早くに会えていたのかも。
「けれど無理して起きられても、城中パニックになるのでやめてください」
「いや、どゆこと?」
「これは陛下の事例なんですが、陛下も竜人ですから、冬は冬眠に近い準備期間のようになるんですよね。魔物とのいざこざの時に無理して起きていたんですが、口から火を出すくらいヤバかったらしいので、本当に緊急事態でもなければ、冬眠はしっかりしていただくことになりました。ま、そう言う時のためにも、守護者がいるので」
マジで!?陛下、人間と変わらない感じだったのに、口から火ぃ吹くのぉっ!?す、すご。竜人恐 ……っ!!
そして、守護者。文字通り国を安寧に導く存在だと聞いている。国を魔物の被害や天災、災厄から守る存在。守護者がいなければ国が荒れたり、魔物の被害が増える。だからこそ守護者は大切な存在で、そんな彼らのために神が運命の番を召喚して与えるのだ。
あれ、それなら――
「他の国はどうしてるの?守護者がいないと大変なんじゃ?」
「他の国にもいますよ。でも、他の国は特定の一族の中に一人ですね。5つもの特定の守護者の一族がいるのは、我が国だけです。もう何百年と守護者が途絶えたことはありません。それ故に他国で守護者が途絶えた時は、我が国が支援を行います」
そう、だったんだ。他の国のことなんて全く知らなかった。召喚されたときに神官が簡単に説明してくれたけど、そこまでは聞けなかった。それに俺はこちらの文字が読めない。本で勉強することもできなかったし、教えてくれる人もいなかったから。
――そして、この国には現在も5家のうち4家から守護者が生まれているんだもんなぁ。
「それにしても、たといさまはこちらの世界についてお勉強は?一時とは言えイル殿下の宮にいらしたのでは?運命の番であっても、そうでなくとも、召喚者は国が予算を出して一定期間衣食住を保証、この世界の、国についての知識を勉強させることが決まっているんですよ。さすがにこちらの世界に召喚しておいて、その上ポイっと言うのは人道にもとるでしょう?」
「え、そんなの、知らなかった」
誰も、教えてくれなかったから。
「俺は仕事、してたよ?宮の、仕事。雑用ばかりだったけど」
そう言えば給金、もらってないな。それとも宮に置いてもらうためのタダ働き?
『は?』
あれ、シュイとロシュが固まっている。
「あの、クソ虎。たといが宮でどのような扱いを受けていたか調査しろ」
「はい、シュイさま」
え、調査?
「あの、大丈夫だって。その、宮に置いてもらえただけでありがたいことだし、何ならここでも働くし。雑用でも何でもするよ?」
「王太子妃となられる予定の方にそんなことさせられますか」
えっ、王太子妃?やっぱり俺、王太子のシュイの運命の番だからそうなるの?
「今、たといさまに必要なのは、王太子妃になっていただくための教育です。そして、例えたといさまが許しても、この国は絶対王政です。召喚者への支援は例え守護者の番と言えどはねのけられません。むしろ、必要だからこそ代々の守護者も受け入れてきた。そしてこの召喚者への支援はかつての国王陛下が定められたこの国の法なのです。それを王位継承と共に現国王陛下も受け継ぎました。ですから必要なものを与えず、教育を与えないことは国王陛下の命に背いたことになります」
ぜ、絶対王政か。考えてみれば、そうかも。
「俺、服と食事と部屋はもらってたよ。給金と教育はなかったけど」
「その質も調査しませんと。そこに投げ捨てられている褞袍も……イル殿下の宮で?」
「えぇ、まぁ」
「あれは粗末すぎます。平民の方がよほどしっかりとした褞袍着てます」
えぇっ!?初耳っ!!
「給金、と言うか、守護者の番用の予算も組んで出しているはずですのに」
予算なんて出てたんだ。それも初耳。
「でも、俺結局、イルの運命の番じゃなかったし、俺のために使ってたらそれはそれでまずかったのでは?」
「それは運命の番と偽ったイル殿下がそもそも悪いです。たといさまに非はありません。それに、普通に城で支援を受けて暮らす分なら、一般の召喚者向けの予算への変更手続きをすれば済みますよ」
え、そうなの?てか、イルのせいって。イルの宮では誰もそんなことを言わなかったもんなぁ。全ては俺が悪いで片付けられた。でも考えてみれば、あそこはイルのシンパの園なんだから仕方がないのかな。
「予算横領の疑いも含めて調べろ」
「御意」
なんか、どんどん大事になってないか?ロシュは再びシュイの蛇体を軽々と越えて行った。
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