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第5話 王太子宮
「アオ、ここへ」
シュイがベルのようなものを鳴らせば、寝室の扉を開けて、一人の美少年が入ってきた。
鮮やかな青の髪に薄い水色の瞳は瞳孔が縦長で、タレ目がちである。頭からは瑠璃色の角が生えており、ひらひらとした着物のような衣の下から覗く下半身は蛇体で、腹は白、背は鮮やかな青。長さは3メートル程のようだ。ロシュさんと同じく蛇体だからか、アオと呼ばれた美少年はするするとシュイの蛇体の上をつたって来た。
「シュイさま、お目覚めですか?――――って、ええぇぇっ!?その、あの、そのお方はっ!?」
「あぁ、我が運命の番のたといだ」
ひゃあぁっ、また運命の番って。
「たといさま!シュイさまにもいよいよ春が、ですね!ぼくはアオイと言います。シュイさまの側仕えです。アオイとお呼びください」
「あ、うん。アオイ、くん?」
「はい!」
なんか、新鮮だ。イルの宮ではこんな好意的な態度をとられたことがなくって。
「アオ、たとい用の服を用意してくれ、あと仕立て屋も」
「服?」
そう言えば俺――
真っ裸――――っ!!
部屋があったかいし、それにシュイが密着してるからか今まで気にしてなかったぁ~~っ!!
「承知しました。ではたといさま、こちらへ」
「あぁ、うん」
真っ裸で立つのは恥ずかしいが、取り敢えず服を――
「昨日の褞袍を……」
せめて着て……
ぶびりぃっ
今、蛇体を器用に使いながら、シュイが褞袍をビリッビリに裂いた――――――っ!?
「ぎゃーっ!?何してんのシュイ――――――っ!!」
「イルに与えられた衣などいらぬ。処分しておけ」
「はい、シュイさま」
アオイくんは冷静に頷いているけどぉっ!?でも容赦ねぇなシュイ。
「シュイさま、シュイさまの上着をお借りしても?」
ここで、アオイくんがまさかの助け船!そういや、ベッドの上に、シュイのと見られる着物のような袷のある衣があるぅっ!!
「む?これをどうする気だ」
「たといさまに貸して差し上げないと、風邪をひいてしまわれます」
そりゃそうだよね!?ナイスアオイくん!
「うむ、ならば」
シュイが衣を掴んで俺に掛けてくれる。
「萌えっ」
何、シュイったら萌えたの!?自分の衣を纏う俺に萌えちゃった!?これぞ彼シャツならぬ彼衣ーKAREGINU-かれぎぬ-ーか!?
そうしてアオイくんに続いてシュイの蛇体の波を越えて……。
ごつっ
「あひゃっ!!」
人間の俺にはハードルが高かったようだ。見事にずっこけた。――――――しかも。
とろぉっ
「ひいっ!?」
また鱗から媚液がぁっ!!
「ん、興奮してきた」
「するな――――――――っ!」
今のは不可抗力だ!
「もう、シュイさまも早く準備してくださいよ。ロシュさまに怒られますよ~?」
「むぅ、仕方がない」
そういうと、シュイは俺の身体に蛇体を巻き付けて扉の場所へと運んでくれた。いや、最初からこうしてよ~っ!まさかとは思うが、わざとラッキーどったーんを狙ったんじゃないだろうな、シュイ~~っ!?
※※※
俺はアオイくんに採寸してもらい、既製品の服をいくつか見繕ってもらった。
見事にアジアンテイスト。チャイナドレス(いや、俺男)だけではなく、チベットの民族衣装風、ミャオ族の民族衣装風。
他にもアオザイがあったが夏用!今春先だけどこれは寒いっ!ブータンのキラみたいのもあったよ!俺受けだけど男!
――因みに、召喚者は召喚された時にみな受け体質となる。昨日俺の尻が濡れた神秘もこれが理由だ。
そして男しかいない世界だから当然、男でありながら妊娠できる身体になってしまったらしい。
うぐっ。
だが、避妊紋と言うものは召喚された時につけてもらっている。召喚者が望まない妊娠をしないようにとの配慮だ。他にも妊娠させやすい獣人種がいるらしく、この世界に慣れて落ち着くまではと言う理由で守護者の運命の番も付けてもらっていた。
こちらの世界では受け男子にとっては大切なエチケットなのだそうだ。
「どれが着やすいでしょうか?」
「う~ん」
日本人ではあるが、だからと言って和服風が着やすいわけではないのだ。普段着なれてないし。
「これにしてみる」
選んだのはアオザイのように丈が長く、左右にスリットが入っているものの、春先でも過ごしやすそうな生地のものだ。あと、ふんわりとしたズボンを下に穿ける。アオザイみたいだけど、スリットの位置はそこまで高くない。あまり寒く感じないように設計されているみたいだ。
あと、この王太子宮は土足禁止である。靴下でもいいのだが、ルームスリッパを履く。ルームスリッパと言っても柔らかい布でできており、かかとまですっぽり覆ってフィットするものだ。底は厚くクッションになるように程よい弾力である。
アオイくんによると、国王陛下の寝所やプライベートスペースも土足禁止らしい。王妃さまが蛇族と言うこともあるし、またその方が気楽だからと言うことらしい。尤も、公の場では靴を履くのだとか。
蛇族は元々家では土足禁止の種らしい。蛇の尾で歩くからと言うのもあるが、床が冷えるとどうしても我慢ならないらしく、床にカーペットや絨毯を敷き詰めヒート魔法加工で温かくするそうだ。
シュイの寝室の絨毯ももちろんそうで、だからこそ床に尾を敷き詰めていても平気なんだとか。
因みに今案内された部屋の床もぽかぽか。ここもヒート魔法加工カーペットを敷いているらしい。蛇族のアオイくんも温かくて快適な職場だと喜んでいる。うん、俺も溶けそう。
あと、シュイの宮の中を案内してもらった。
「現在シュイさまは発情期なので、近くに使用人はあまり近寄りません。この時期に近づくのはぼくとロシュさまくらいですね。発情期が明ければ、もっと活気がでますよ」
ふぅん、敏感な時期ってことなのか。あれ、待てよ?アオイくんも蛇族だよな?
「あの、アオイくんは、発情期は?」
「ふぇっ!?その、夜のうちに、す、済ませてます、のでっ!」
へ?
「あの、まさかとは思うけど、ひとづまぁ!?」
「あの、ぼくの夫はロシュさまですよ?」
「えぇ――――っ!?」
まさかのそことここ夫夫――――っ!!
「ごめん、センシティブなことを……」
セクハラにならないかな、これ。
「いえ、その、蛇族のことで聞きたいことがあればいつでもどうぞ?ぼくも蛇族ですから!」
「あぁ、うん、ありがと」
アオイくん、めっちゃイイコっ!
そして現在使用人たちのいる宮の中を巡っていれば、蛇族の使用人や猫族の使用人が多い、な。
蛇と猫の組み合わせはいいのかどうか、ひとまずそこは置いておいて。蛇族はともかく猫族がここに多い理由って、――――――――ぬくぬくだから、じゃないよね!?
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