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第6話 謁見

「よし、たとい。父上と母上に会いに行くか」 「はいっ!?」 ――――――シュイの宮で暮らし始めて早数日が経った。今ではちゃんとした服ももらい、イルの宮で取っていた食事とはまるで違うちゃんとした食事を取っている。 もらってみて気が付いたが、シュイが注文してくれた服は生地もしっかりしていて、所々に刺繍がある上品なものだった。裏地もしっかりとついている。 あちらでは寒々しくてもそんなものなのかもと我慢していたが、こちらではぬくぬくだし、服もしっかりしているんだよね。 さらに食事も大幅に改善した。以前は麦と具の少ないスープに小鉢。使用人になってからは小鉢も付かなかった。スープの具も減った。 俺は所詮イルの偽物の番だからと我慢していたが、アオイくんに召喚者がこの城で与えられる食事はちゃんと白米に具の入ったスープ、おかずは3種類と聞いて愕然とした。俺は最低限の食事でさえ供給されてなかったのだ。 ここではシュイと一緒の食事と言うこともあってしっかりと食べられる。 もぐもぐ、おあしい。 蛇族の食事は肉と果物が多い。何か食事の希望はあるかとシュイに問われ、俺が野菜も取りたいというと、サラダも出してくれた。 食事内容の希望を聞かれたのは初めてだ。聞く限り、普通の召喚者でも希望を出して過度な贅沢でなければ通常は希望が通るらしい。 とは言え、イルのところで希望など出したら、後でなにされるか分かったもんじゃないもんなぁ。 それに比べりゃ、ここは快適だ。因みに今日の昼はナンカレー。 他にもフォーとか中華とか、味噌汁が出た時もあった。――――――いや、アジア混ぜすぎこの世界!この国だけかもだけど! でも、単純に味噌汁はありがたかった。長らく食べていなかった故郷の味って感じだもんなぁ。 因みに、こちらにはパンもある。トルコのエキメッキみたいなやつだ。 まぁ、中華があるのでもちろん肉まんはあるし、インドのナンもある。 食事は西洋やなんちゃってヨーロッパではないから菓子パンは諦めていたのだが、揚げパンやあんパンがあった。あと、焼きそばパンとポテサラサンドもあった。こ、ここは日本の謎の炭水化物×炭水化物文化が確実に入ってるぅっ!!でもむしろ、馴染みのある料理も多くて助かっている。 ――――――――そんな感じで快適な生活を謳歌していたのだが、 「何故、突然に」 「最近は発情期も落ち着いてきた」 そう言えばこのひと、発情期だったな。落ち着いてきたって言っても毎晩激しいんだけど。まだ2本目は早いか?と言ってくるので2本目用の開発はまだだが、それでも何度も何度も出して、俺の腰が立たなくなるくらい激しい。 今だって腰に優しいソファチェア用意してもらってるし、本当に立たない時はシュイのお膝の上である。 「これも毎日、運命の番のたといとまぐわっているからだな」 ……おぅ、俺の腰の奮闘のお陰だったぁっ!! 「母上も発情期が落ち着いてきたと言うから、父上と共に謁見できるようになった」 あぁ、王妃さまも蛇族だから発情期が来てたんだよね。 「あれ、そう言えば国王陛下は?」 竜人だと聞いたが。 「あ、聞いちゃ行けなかった!?」 「いや、父上の場合も蛇族とあまり変わらんが、おじいさまの白虎族の血も引いているから、少しは理性が効く。日中なら発情期でも謁見などの予定があれば顔を出すし、会議にも出る」 「そうなんだ。白虎族の」 つまりは、イルと同じ種族だ。 「イルが白虎族なのは隔世遺伝?」 「いや、それはあいつの母親が白虎族だからだ。私たちは母親が違う」 えっ、まさかの異母兄弟!? 「じゃぁ、イルの母親も王妃さま?」 「一応な。第1王妃だ。だが病弱な方で、今は離宮で静養し正妃の地位も返上している。王妃の仕事も担っていない。今の正妃は第2王妃の母上だな」 王妃、2人いたんだ! そしてイルのお母さんは王妃だけども静養中、か。 「だが、何故アレのことばかり聞く」 「えっ、何、嫉妬!?」 もう、シュイったら。因みにアレとはイルのことだろう。イルには俺のこともあるし怒っていたが、イルのお母さんにはそれほど忌避するような感じではない。あくまでもシュイとイルの折り合いが悪いってことなんだろうな。 「……で、いつ会いに行くの?」 さらりと話題をそらしてみる。 「この後だ」 あ、割とそれた。 「この後って、どのくらい?」 「そうだな、食事が終わったら、一時間くらいか。ちょうどそのくらいの時間にアポを取っている」 やっぱアポは必要なんだ。なんちゃって魔王の間みたいにいきなり勇者がアポ無しで乗り込んじゃいけないんだ。 そうして食事が終わればいつの間に用意していたのか、蛇族が良く着ると言う衣装を着せられてしまった。詰襟で左に打ち合わせのある中華風衣装だ。丈は長くて膝丈まで生地があり、腰に帯を巻くスタイル。――――――とは言え蛇族の衣装だ。下がスカートみたいにスースーするぅっ! そう思っていれば、蛇族の二足歩行用のゆったりとしたズボンをアオイくんが差し出してくれた。助かったぁ、と思ったのも束の間。 初めての朝に貸してもらった着物のような袷のある衣を上に着せられるが、縁取りや刺繍が至るところに散りばめられている。 さらにその上にジャラジャラと宝石やカラフルな石の首飾りをかけられる。頭にはベールを被せられてその上からベールを固定するこりゃまたジャラジャラと宝石のついた装飾具をつけられてしまった。 「あのっ、これっ、つけすぎじゃっ!?」 「蛇族じゃ普通ですよ?もちろん、王妃さまよりも目立たないレベルです」 と、アオイくん。そりゃぁ王妃さまより目立つ訳には行かないけど、これは、そのぅっ。 「しかも、このベールっ」 「たといさまはシュイさまの運命の番ですがまだ未婚ですから。未婚の蛇族は外ではベールを被るのです」 マジかっ!!なんか花嫁さんのベールみたいで恥ずかしいっ!! 「準備はできたか」 着付けが終わりもじもじしていれば、正装をしたシュイがやってくる。シュイは蛇体を2本脚に変化させており、デザイン自体は俺が着ているものと変わらないのだが、攻めさまだからかベールはなく、耳飾りと首飾りを身に付けている。 「うん、良く似合うな」 そういってシュイが俺に手を伸ばしてきた。そして俺の耳元にカチッ、カチッとなにかをつけてくる。耳に何か吊り下がって―― 「み、耳飾り?」 「あぁ、私と揃いのものだ」 シュイの耳元には雫型の、銀色に縁取られた金色の宝石の耳飾りが付いている。お、お揃いって! 「ぺ、ペアルックっ」 何この恋人みたいなのはっ!いや、運命の番なら、みたい、じゃないのかな? 「お、落ちない?」 耳飾りって落ちて失くしやすいって聞いたことがある。落としたらどうしよう。 「大丈夫だ。魔法で加工したものだから、外さねば落ちない」 魔法、便利だな、オイィッ!! そして、国王陛下に会いに玉座の間だとか王の間だとか呼ばれる場所に行くので、ふかふかインソールの内履きから外履きに履き替える。 ぺたんこ靴かと思いきや、厚底のてかてかした靴だった。何この立派そうな靴!?しかも結構歩きづらいのにシュイは平気そうである。 シュイが手を差し伸べてくれたので、シュイの手を取りゆっくりと歩き出す。 うぐ、シュイには微笑ましそうに見られている。まるで生まれたてのひよこみたいだ。 「そう言えばさ、この世界のひとは魔法が使えるんだね」 少し靴に慣れて来たので、会話もしてみる。 「あぁ、だが王族や守護者や、一部種族はそれ以外の異能も持つ」 守護者は、それ聞いたことがある。 「王族もなの?」 「そうだな。蛇族は元々邪眼と言う異能を持つ。私もそれを受け継いでいるし、父上から王家の魔眼も受け継いでいる」 邪眼に魔眼ねぇ。ファンタジーお約束って感じの異能である。 「イルも?」 「いや、王家の魔眼は……、アイツは守護者の異能だけだな」 ふぅん。そうなのか。 「私が恐くなったか?」 「は?何で」 「だって、邪眼や魔眼だぞ?」 「そんなの、俺に使わないじゃん。別に」 むしろお前の性欲のほうが恐いわ。あと二輪挿しした時の膨らみ具合とか。いやまぁ、でも絶倫だからか気持ち良くはなれるんだけど。 「まぁ、そうだな。蛇族は本気で愛しているものに能力は使わないと言うのがスタンスなんだ。本気で愛している者に使うのは蛇族は恥としている」 「そうなの?」 ――――――てことは、俺のことも本気で?でもそれは、痛いほどに愛を囁かれているから、骨の髄まで染み込んでるかも。 「むしろ使われた者は相手にもされない己を恥じよと言うのも蛇族の格言だ」 「うわぁ」 はっきり言うなぁ。でも嫌いではないかも。むしろカッコいい、かも。 「まぁ、この類いの異能は運命の番には通じんがな」 「え」 じゃぁ俺には通じないんだ。 「だからこその、守護者の運命の番でもある」 守護者も異能を持つと言われている。その理解者である運命の番には、その力が通じない。守護者と言うのも、運命の番に頼らざるをえない強力な異能を持つってことか。 だとしたらイルも大変だな。――むしろ、俺と距離を置いたのは、運命の番ではないと分かっていたから、異能の影響を受けないようにってことだったのかな。――だとしたら、放置されたのは悲しいけれど、イルなりの優しさだったのだろうか。 「――――――たとい、私と一緒の時に何を考えている?」 びっくーんっ!! え、何!?そんなことまで分かるの!?でもここでイルの名前を出したらシュイが盛大に嫉妬しそうな未来が見えるぞ。今度は確実にそらせない気がするっ!これ受けの感っ! 「あ、あのっ、俺陛下に謁見するための作法とか、知らない、から」 今さら、だけども。俺のせいでシュイが困ったら、さすがにっ! 「そうか、まだこちらの知識は勉強中だったな」 とは言えまずは読み書きからで、アオイくんに教えてもらっている最中である。 「問題ない。そなたは私の腕の中でじっとしていれば良い」 は?腕の中? その瞬間、俺の身体がふわりと浮き上がった。ん?これって…… 「なっ、ちょまっ!?」 お姫さま抱っこじゃんんんっ!! 「シュイ王太子殿下と召喚者ヘビハラ タトイ殿!」 名前を呼ばれ、王の間なのだろう立派な扉が開いてしまった。 ちょ、ちょまあぁっ!? しかしシュイは悠然とレッドカーペットの上を歩いていく。いや、ちょっと、本当にこれいいの!?怒られない!? そしてシュイが立ち止まったその先の高座には……。 かつて見た国王陛下と、シュイにそっくりな美しい男性が玉座に腰掛け、狼耳しっぽの獣人がその後ろに控えていた。

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