23 / 26
第23話 スグルとケイ
次の日、学校から帰るとケイが話しかけて来た。
「お兄ちゃんと同じ学校に行きたいです。ちゃんと勉強します。」
そう言った。
きっとまた、やらなくなるだろう。
でも、俺も、ケイと勉強だけの世界じゃなくて、もっと他のこともやって視野を広くしよう思っていた。
「わかった。でもこれから俺は他のことで忙しくなるから、今までみたいに付きっきりにはなれないよ。だから、自分でもがんばるんだよ。」
「うん。」
と、ケイはうなずいた。
――――――――――――――
父とミサコさんには、ケイが受験勉強を続ける意思があることと、自分の塾を少し増やしたいことを伝えた。
二人とも了承して、それ以上特に何も言わなかった。
塾では帰宅時間を気にせず、友達とおしゃべりをしたり、帰りにお店に寄ったりして楽しかった。
先生には、ケイの成績や勉強の仕方を相談した。
先生は快くアドバイスしてくれて、ケイへの指導へも余裕ができた。
ケイはちゃんと課題を済ますようになった。
塾が増えて帰宅時間が遅くなり、ケイは一人でごはんを食べ、自分の家事をして、勉強する時間帯に俺が帰宅する…というリズムになった。
だから、平日は自学、勉強を教えるのは休日になった。
いいバランスだと思った。
それに、最近ケイはベタベタとくっついて来なくなった。
大人になったんだろう。
今までの鬱々が嘘のように、毎日が楽しくなった。
――――――――――――――
ある日、リクが新しいおすすめの漫画があると言って、俺のアプリを開いた。
「あれ?前に入れたこの漫画、気に入った?冗談のつもりで入れたけど、現実の行動にはうつすなよ。」
なんの話かわからなくて、画面を見る。
兄弟の恋愛ものの漫画だった。
当然、性的な描写もある。
俺は、この漫画を見ていない。
ケイだ。
学習アプリをこのスマホに入れていて、使わせていたのだ。
かなり読み進めている。
たまたま開いたのではなさそうだ。
だが、逆も考えられる。
最近、ケイはよそよそしい。
こんな漫画を入れている俺のことをキモいと思っているかもしれない。
まあ、このまま距離をとられても、受験はなんとかなるだろう。
そう思って帰宅した。
――――――――――――――
いつものように過ごして、いつものようにスマホを貸した。
アプリは消してない。
ケイが、それなりに性的な興味を持つのも仕方ないだろう。
見たくないものを見せつけてるわけじゃない。
わざわざアプリを開かなければ見れないのだから。
俺はその日疲れていて、早めにベッドに入った。
寝転びながら本を読んでいたが、いつの間にか眠っていた。
違和感を感じて目を覚ますと、ケイが俺にキスをしていた。
小さな口で、まるでパンか何かを食べるように唇をはんでくる。
たしかに、こんなシーンがあの漫画にあったのだ。
当然、拒絶もできる。
が、拒絶されたケイはどんな気持ちになるだろう。
――――――――――――――
「母さんと、離婚することになった。親権は俺にあるから、これからは父さんと暮らすことになる。」
あの日、急に父にそう言われた。
どちらと一緒に住みたいか?なんて一度も聞かれてない。
俺は、母親に捨てられたんだ。
母がダンススクールに通い始めた頃。
俺は部活の予定が無くなって、早目に家に帰ったことがある。
母と、男の靴が玄関にあった。
二人はリビングにおらず、俺は父と母の寝室のドアの前まで行った。
案の定、ドアの向こうから母の喘ぎ声が聞こえた。
察しはついたのに、どうして見て見ぬふりをして外に出なかったのか、今でもわからない。
不貞行為の離婚だ。
父親が親権をもってしかるべきだろ。
俺だって、勝手に人ん家に入り込んでヤッてるような男を父親にしたくない。
だから、いいんだ。
そう思ってた。
――――――――――――――
「お兄ちゃん…俺を見捨てないで…。」
か細い声でケイが言った。
それを聞いて、俺の中で、何がキレた。
俺が、あの母親と、同じことをしてるって言うのか?
俺は、いつだってお前のことを考えていたよ!
こんなに尽くしてきたじゃないか!
ちょっとくらい、遊んだっていいだろ!
俺は、あんな女とは、違う!
自分の快楽のために、家族を捨てるあんな女とは違うんだ!
俺はケイの唇を激しく吸った。
歯が当たって、舌が傷付きそうだ。
ケイは細い腕で俺にしがみついた。
相手が男でも、弟でも、体は興奮するんだと、初めて知った。
ともだちにシェアしよう!