5 / 111
第6話 再開 ①
瑞稀は晴人と再会し、プロポーズのような告白をされた。
晴人は「すぐにでも結婚したい!」と言ったが、そんなことは瑞稀にとっては刺激が強すぎた。
なので、瑞稀は「はじめは、お付き合いからでお願いします…」と照れながら言うと、まずは「結婚を前提にしたお付き合いから始めよう」と言うことになった。
再会した晴人はアルファで大きな総合病院の研修医。
瑞稀はオメガでバーテンダー。
バース性が違うし、仕事の時間は昼間と夜。
全く真逆。
2人で会える時間はほとんどなかったが、晴人は時間の許す限り瑞稀が働くバーに通った。
晴人の仕事が休みの前日は、晴人は瑞稀の仕事が終わるまで店で待ち、その後2人仲良く、晴人の部屋に帰っていた。
瑞稀ににとって本当に幸せな時間。
今日も仕事が終わると、瑞稀は晴人の部屋に行く日。
だが今日はいつもと少し、違っていて…。
曜日が金曜からもうすぐ土曜に変わろうとしている、23時50分。
「瑞稀くん。今日はもう上がっていいよ」
カウンターの中でカクテルを作っていた瑞稀に、バーのオーナーが声をかけた。
「でも、まだ営業時間内ですし…、お客さまも、まだたくさんいらしゃいます」
店内を見回すと、8割がた席が埋まっている。
「このぐらいの人数だと、|オーナー《俺》と、かすみちゃんとで何とかなるよ」
そう言いながら、オーナーはレッドアイをカウンターの常連客に出した。
「そうだよ~。今日は常連さんばっかりだし、オーナーと私で大丈夫。少しぐらい注文が遅くなっても、誰も何も言わないよ。ね」
テーブル席のグラスを下げながら、かすみが常連客とアイコンタクトをとりながらいたずらっぽく言うと、カウンターの客も『うんうん』と頷く。
それでも、やっぱり気が引ける。
瑞稀が困っていると、かすみが瑞稀のそばまでやって来て耳元で、
「オーナーは晴人さんの圧に怯えてるんだって」
囁いた。
瑞稀が晴人の方を見ると、カウンターの隅に座る晴人は瑞稀に優しく微笑み手を振る。
「?晴人さんの圧…ですか?いつもと変わらないような気がしますが…」
「でも、ほらオーナーを見る目、見て」
そうかすみに言われたので、瑞稀は晴人に気づかれないように晴人の方を見ると、無表情でオーナーを見続けている。
明らかに『瑞稀を早くあがらせろ』と目で訴えている。オーナーはオーナーで晴人のことをしっかり見ていないが、横目で晴人のことをチラッと見ては、怯えた素振りを見せていた。
「ほらね。怯えてるでしょ」
かすみはオーナーが怯える姿を見て、クスッと笑う。
晴人さん、いつもはそんなことしないのに、今日はどうしたんだろう?
「瑞稀くん。今日は2人にとって、何か特別な日なの?」
かすみが聞くが、
「特別なことですか?う~ん…ないと思うんですが…」
瑞稀は心当たりがない。
「絶対にあるって。じゃないと、あの温和な晴人さんが、オーナーに圧をかけることないもん」
「なんでしょう…」
「何かしら…?」
瑞稀とかすみは考え込みながら、晴人を見た。
今日は2月20日。
誕生日?
僕の誕生日は10月15日だし、晴人さんの誕生日9月20日だから、まだまだ先。
特に何もなかったはず…。
考えられる行事は全て考えてみたが、どうしてもわからない。
「かすみさん、どうしよう…。僕、本当にわからないんです…。記念日忘れるなんて僕、晴人さんに嫌われてしまう…」
不安で瑞稀の目にうるうると涙が溜まる。
「あ~!瑞稀くん、泣かないで!」
小声でかすみはそういうと、晴人から瑞稀が見えないよう背を向けた。
「そんなことで、晴人さんは瑞稀くんを嫌いになんてならないって。忘れちゃったのは仕方ないし、もしかしたら晴人さんが勝手に作った記念日かもしれないよ」
そうかすみに慰められると、瑞稀は『うん』と頷き、目に溜まった涙を拭った。
「オーナーが晴人さんの圧で、震え上がらないうちに、今日は晴人さんと一緒に帰ったほうがいいよ。後のことは私が全部しておくから、安心して」
かすみが瑞稀の背中を撫でる。
「はい…そうさせていただきます…」
瑞稀はオーナーに、
「オーナー、お言葉に甘えて…、お先に失礼します」
と、店の奥にある控室に行った。
ともだちにシェアしよう!