7 / 111

第8話 翌日

あ…、朝だ。  目を覚ますと、瑞稀は背中に温かな温もりを感じた。  振り返ると、晴人が後ろからしっかりと瑞稀を抱きしめている。  晴人との半年記念は、とても幸せな時間だった。  後片付けは瑞稀が全部すると言ったが、晴人さんが「俺は瑞稀と一緒にしたい」と言ってくれ、晴人と二人でした後片付けも、とても楽しい時間となった。  その後、ゆっくりコーヒーでも飲もうと言うことになり、晴人がコーヒーを淹れている間に…、どうやら瑞稀はソファー眠ってしまったみたいだったが、目覚めたのはベッドの中。  きっと晴人が、ベッドまで運んでくれたんだろう。  晴人はどこまでも優しくて、どこまでも魅力的だと瑞稀は思う。  艶やかな黒髪に、同じく黒く長いまつ毛。  シャープな輪郭に整った目鼻立ち。  角張っていて、長い指先。  今は眠っていて見えないが、黒い瞳の中にも優しさが滲みでている。  ぐっすり眠る無防備な晴人の姿に、瑞稀の胸はドキンっと大きく跳ね、晴人の寝顔はいつ見ても綺麗だと、瑞稀は見惚れた。  瑞稀は起こさないようと、ゆっくり晴人の胸の中から抜け出すと、正面からまじまじと晴人の顔を見つめる。  頬に手を当てるとピクっと体を動かし起きそうになったので、瑞稀は慌てて手を引っ込めた。 起きちゃったかな…?  しばらく寝顔を見続けるが、起きる気配はない。 昨日のディナー、美味しかったな。 1年記念は、僕が手料理ご馳走したいな。 今のままでは晴人さんみたいにすごい料理はできないから、これから毎日特訓! それから晴人さんの好きなもの、こっそりリサーチもしないとね。  瑞稀は半年後の『一年記念日』の計画をたてる。 付き合って1年経つ頃には、僕たち…恋人のキスとか…しちゃってるのかな?  考えただけで、瑞稀の頬が赤くなる。  今まで何度か、キスしそうになったことはある。  だが、瑞稀はどうしても恥ずかしい気持ちが勝ってしまい、先には進めない。  最近ようやく、晴人に抱きしめられたり、額にキスされても、体が強張らなくなってきたが、それでもスキンシップが多いと、どうしてもダメなのだ。 「僕だって、本当は晴人さんと…恋人のキスとか…、したいんですよ…」  晴人が起きている時には、絶対に言えないが、晴人は今、眠っている。 こんな時にしか言えないなんて、情けなくなってくる…。 「晴人さんも、そう思ってくれてますか?」  これも晴人が起きている時には、絶対に聞けないこと。 晴人さんとキス。どんな感じなんだろう。  瑞稀は晴人の唇に人差し指を当てる。  想像していたよりも、晴人の唇は柔らかかった。  そしてもう一度、触れたくなった。 僕、どうしちゃったんだろう…。  もう一度触れると、やはり柔らかい。 僕たち、いつかは恋人のキス…するんだよね。  晴人は瑞稀が幼い時からの憧れの人。  そんな人と恋人同士になったとは言え、憧れの人とキスするなんてしていいのか?と思ってしまう。  またそっと頬に触れると、いつもより晴人を感じ、瑞稀の胸が高鳴る。 僕たち、いつかは恋人のキス…するんだよね。  そう思う気持ちが、どんどん大きくなる。  心臓の音が部屋中に響きわたっているのではないかと思うぐらい、大きく早く脈打つ。  そしてとうとう、瑞稀は自分の気持ちを抑えられなくなってしまった。  穏やかに眠る晴人の頬にそっと近づき……。  キスをした。  唇がほんの数秒、晴人の頬にあたっただけのキス。  それなのに、瑞稀にはとてつもなく長い時間に感じられた。  そして、瑞稀はキスをする前よりももっと、晴人のそばにいたいと思った。 絶対晴人さんの前では、恥ずかしすぎて言えない。 でもきちんと伝えておきたい。 言葉でちゃんと伝えておきたい。  瑞稀は大きく息を吸い込み心を落ち着かせると、晴人の耳元に近づき、 「晴人さん、大好きです」  そう囁くと、恥ずかしさのあまり瑞稀は顔中真っ赤にし、寝室を出た。

ともだちにシェアしよう!