98 / 111

第98話 告白 ①

 瑞稀の気持ちも落ち着き二人は黙ったまま、また廊下に静けさが戻ってくる。 「瑞稀、聞いてもいい?」  口を開いたのは晴人の方だった。 「はい」 「俺は千景君と同じように、先天的に出血したら止まりにくい体質だし、血液も特殊だ。この病気は子供の父方からしか遺伝しない。なぁ瑞稀、千景君は、いったい誰の子なんだ?」  今度こそ返事を聞かせてくれというように、晴人は瑞稀の目を真正面から、瞬きせず聞いた。  瑞稀はゴクリと唾を飲み込み、 「晴人さんの子どもです」  瞬きをせず、晴人の目を見て言った。 「そうか……」  晴人は特に驚きもせず、瑞稀の告白を受け入れる。 「どうして今まで言ってくれなかったんだ?」 「それは……晴人さんに迷惑をかけたくなかったんです」 「迷惑?」  晴人は眉を顰める。 「それどういう意味?」 「……」 「話してくれないとわからない」  声のトーンに苛立ちが感じられる。 「妊娠がわかった時、話そうと思ったんです。でも偶然奥様と会って、晴人さん、旦那様と奥様と連絡を取られてないって……」 「それと瑞稀の妊娠とどう関係があるんだ?」  先ほどまで隠そうとしていた苛立ちを、もう隠そうとはしない。 「晴人さんには許嫁の方がいらっしゃって、その方との話が進んでいると」 「じゃあ瑞稀は、俺に確認することなくそれを信じたの?」 「……はい……」 「どうして!?」  晴人は声を荒げその声が廊下に響き、晴人はハッと我に帰った。 「母さんのことだ。それだけ言いにきたんじゃないんだろ?」  いつものように、晴人は落ち着いて話す。 「実は……」  瑞稀は晴人の母親から手切れ金を突きつけられたこと。  晴人を不幸にしないでほしいと言われたこと。  話した。 「どうしてその話をしてくれなかったんだ? 俺が瑞稀といることで、どうして俺が不幸になるって思ったんだ? 一生一緒にいようと言ったのは、なんだったんだ?」  晴人が言いたいこと、聞きたいことは確かだ。  だがその時の瑞稀には、その選択肢を選ぶことはできなかった。  なぜなら……、 「晴人さんは、俺との子供、いらないのかと思って……」  まともに晴人の目が見れず、瑞稀は目を伏せて言った。 「はぁ?」  明らかに晴人の怒りの声が聞こえる。 「いつ、いつそんなこと言った?」 「晴人さんとお鍋を食べに行った時に……」 「そんな話、聞いてない」 「……」  晴人自身ははっきりとは言っていない。  でもその時の瑞稀の心境では、あの時の晴人の言葉は、晴人は子供を望んでいないと聞こえてしまっていたのだ。

ともだちにシェアしよう!