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第10話 サンタとの出会い
4年生の橘は、就活が終わったことで卒論のみになり、暇ではないとはいえ時間には余裕があるようだった。
逆に彼女は就活中で、やっぱり予定が合わないらしい。
ちょっとした時間が空くと、一緒にごはんを食べに行ったり、俺のアパートでダラダラ過ごすことが増えた。
一度だけ、橘が泊まって行ったことがある。
泊まると言っても、酔ってそのまま寝てしまっただけだが。
眠っている橘を見て、イケメンは眠っててもイケメンなんだな、と思った。
そしてホッとした。
無防備な橘を見て、もっと自分がムラムラするのかと思っていた。
もう、自分にとって、橘はただの友達になったのだろうか。
――――――――――――――
12月になり、いつの間にか世の中はクリスマスムードになっていた。
いつものようにバイトを終え、住宅街を歩いていると、急に後ろから大声が聞こえた!
「わわわわわっ!止まらんっ!危ないっ!」
振り向いたら自転車がこちらに突っ込んできた。
そのまま自転車にはねられ、地面に倒れる。
自転車と、乗っていた人もすごい勢いで飛ばされていた。
「い、いたた…。す、すまんな兄ちゃん…。大丈夫か…?」
自転車に乗っていた小柄で小太りなおじさんが、自分の腰をさすりながらよろよろと近寄ってくる。
サンタの格好をしていて、自転車には配達用のバッグがついている。
クリスマス仕様の配達業者だろうか。
「ええ、大丈夫…ですけど…。」
俺はゆっくり起き上がった。
そこまで痛いところはないが、ムチウチになってないか心配だ。
「ホンマ、すまんなぁ。ワシはサンタなんやけど、最近不景気やから、トナカイ連中に賃下げお願いしたらストライキされてな。仕方なく自転車でプレゼント配っとるんや。運転慣れない上に、この凍結路面。転ぶのも無理ないわな。」
と、言っている。
配達業者にしては凝った設定だ。
「そうですか…。気をつけた方がいいですよ、自転車に轢かれて死ぬ人もいますから。」
「ホンマに堪忍な。あー…ちなみに、兄ちゃん、今ヒマ?」
「ヒマではないですけど…。」
「プレゼント配りのバイトせいへん?ホンマのサンタのプレゼント配りを手伝えるなんて、なかなか無いよ。お礼は、兄ちゃんのなんでも欲しいもの、一つプレゼントや。」
事故っておきながらバイトに誘うなんてなんて図太い人なんだと思いつつも、「なんでも欲しいもの」という言葉には惹かれた。
そう言われたら、やっぱり橘のことが思い浮かぶ。
いや、何を考えているんだ俺は。
変なおっさんの冗談を真に受けている。
「なるほど、兄ちゃんは、その兄ちゃんのことが好きなんやね。」
ピンポイントの発言に仰天した。
「な、なんでわかったんですか⁈」
サンタは得意げに笑った。
「サンタをなめたらあきまへんで。相手の欲しいものを見抜くのは基本のキ!や。まあ、普段大人にプレゼントはしないから、兄ちゃんの欲しいものはさすがにひと味違うなとは思ったけど。どないする?プレゼント配り、手伝ってくれるなら、願いは叶えたるよ。」
俺は迷った。
サンタは確かに胡散臭いが、超能力(?)は本物っぽい。
そこに興味がないわけではなかった。
あとは、自分の欲望の問題だ。
そのまま橘先輩がほしいというのは、人間としてどうなのか。
「まあ、その願望ならおもちゃみたいに、はいコレ!とはいかんだろうから、兄ちゃんにとって一番都合の良いかたちにはしたるで。」
一番、都合の良い…というなら、橘が以前のように夢を追い、自分が橘の恋人になることだ。
ただ、それはあくまで自分の欲望であって、それが橘の幸せかというと…違うだろう。
橘は、彼女と結婚し、温かい家庭を築くのもまた夢なのだ。
宇宙を蹴ってでもそうしたんだ。
橘が悩んで決めたことを知っているから、そこに自分の欲で割り込むなんてできない。
「決まらないなら、プレゼント配り手伝いながら考えへん?12月24日に教えてくれれば25日の朝に叶うよ。まあ、考えた末に、大金が欲しい!とかでもいいし。」
橘のことがなければ、お金でも良かっただろう。
でも、お金では決して手に入らないものがあると、今回のことで知ってしまった。
まあ、いっそ、お礼がなくてもいいや、と思った。
「じゃあ、24日まで考えさせてください。プレゼント配りは、どうすればいいんですか?」
「おー!助かるわー!じゃ、とりあえずここではなんだから、ちょっとあったかいとこに行こうか。」
そう言われて、俺たちは近くのファミレスに移動した。
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