11 / 94

第11話 ファミレス

ファミレスで、サンタはステーキセットを食べていた。 「自分食べへんの?プレゼント配りは結構体力いるよ。」 「バイト先で食べてきたんで、満腹なんです。」 「なるほど、兄ちゃんの意中の人は、そのバイト先で一緒に働いているんやね。」 「ちょっと!勝手に頭の中を読むのはやめてください!」 「地球人は本当にどうなってるんかな。君たちの言うテレパシーみたいなんはね、できるのが普通なの。どうしてあえて遠回りな言葉なんかを使っているのか。」 「そ、そうなんですか…?その…そもそも、あなたはなんなんです?」 サンタはコーラをグイッと飲み干し、軽く咳払いをすると座り直してこう言った。 「まあ、兄ちゃんとはな、短い間だったとしても仲間として働きたいねん。だから正直に言うけどな…ワシは本当は、サンタやないねん。」 サンタは真剣な顔つきで言ってきた。 サンタかどうかを疑っているわけではなかったが、黙って次のセリフを待った。 「地球にいるサンタ族から、プレゼント配りを業務委託された気の優しい宇宙人やねん。」 いよいよ怪しくなってきた。 今のうちに逃げた方がいいだろうか。 「サンタ信仰は下火になる一方や。そういう神秘的な存在ってな、信じる気持ちがないと数は減るわ、力は失われるはで、大変なんよ。もう自力では配りきれんから、ってワシらに依頼がきたわけ。」 サンタか…。 確かに自分も小学校高学年のときにはもう信じていなかった。 「まあ、やり方は教えてくれるってんで気軽に引き受けたんやけど、『トナカイは自分で用意』って知らんかったのよ!なんとか借りられないか交渉したんやけど、『契約書に”自前で“と書いてあります』の一点張りで聞く耳もたんし。なんとか用意はしたけど、あいつら意外と賃金高いねん。シーズンやし。そしてストライキやで。ホンマ散々や。」 サンタはステーキを食べ終え、ドリンクバーをおかわりしてきた。 「で?兄ちゃんは、その彼のこと、どこが好きやねん。」 「え…まあ…。優しいところが…。」 今まで、先輩のことを誰にも話したことが無かったので、そういう話題を口に出すことが少し恥ずかしかった。 「そうか。兄ちゃんは、優しくされると弱いんやな。告白はしたのか?」 「まさか!そんなこと、できないですよ。」 「なんで?」 「男同士だし…。言われても、あっちも困りますよ…。」 「はあ、そういうもんなんか。まあ、自分自身が分裂して増える生物とは違うから、男女は大事かもしれんけど。愛情表現まで男女に縛られるのは、なかなか地球人は大変やな。」 愛情表現か…。 もし、先輩に嫌われないと決まっているなら、愛情表現もできる気もするが。 もし気持ち悪いと思われたら、絶望しかない。 「兄ちゃんが悩んでるのはわかったよ。ま、ワシの魔法があれば一瞬でその彼も兄ちゃんの虜になるからな、大船に乗ったつもりで、楽しみにしててや。」 サンタはプレゼントが橘で決定のような口ぶりだ。 魔法で好きになってもらうなんて、それでいいんだろうか。 「あと、そいつ、宇宙に詳しそうやな。」 「あ、ええ。大学で宇宙開発の研究をして、仕事もそっちに行くとこなので。」 「なかなか筋が良さそうな青年やね。ただ、そんなペースじゃ、ワシらのような存在とファーストコンタクトをとるのは難しいで。」 「…どういう意味ですか?」 「地球人はな、昔の方が感覚的に宇宙を知っていて、宇宙の法則の中でうまく生きていたんや。それが失われていって、自分たちが自力で生きなあかん!っていう焦りや不安がな、ますます自分たちを苦しめてんねん。」 新興宗教だろうか。 自分は流されやすいし騙されやすい。 騙しのプロに本気をだされたらひとたまりもない。 帰るなら正気な今のうちだ。 「その青年もな、やりたいことやったらいいんやけど。やりたいことやるとな、今までにないパワーが出んねん。そして今までにない経験をすんねん。それがおもろい人生になるんや。 でも、そうそう勇気が出ないのが人間やね。まあ、人間として悶々としてるのもいいと思うよ。どうせ、短い命やねん。自分の好きにしたらええ。」 それは同感だった。 橘の今までの努力と輝きを知っているから、もっと橘には最後まで夢に向かって欲しかった。 橘を思いとどませる彼女に腹が立つ。 彼女なら、橘を理解して応援すればいいのに。 もし橘が彼女から夢を応援されたら、きっと喜ぶし、もっと頑張れるだろう。 「兄ちゃんは、優しいな。」 「え…。」 「いつもその彼の幸せを考えてあげてるんやね。」 「それは…。」 「それで、そうしたら、兄ちゃん自身の幸せは、どこにあるん?」 急に虚しい風が心の中に吹いた。 橘がいなくなった一年は、幸せじゃなかった。 自分が充実しているときは、そばに橘がいた。 「先輩がいれば…幸せですけど、でも、それって、依存じゃないですか…。そんな弱い人間じゃ、ダメだと思うんです。」 なぜか、自分の声は震えていた。 「ふーん。自分にとってかけがえのない人間に出会えた奇跡を喜ぶより先に、それを依存に感じるなんて、やっぱり地球人は変わってるね。」 サンタはあっさりと言ったが、自分の胸が急に締め付けられるのを感じた。 「ほな、明日からやろか。連絡先教えて。テレパシーはな、ずっと使ってると疲れるから。」 那央はサンタとスマホで連絡先を交換した。

ともだちにシェアしよう!