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第21話 BARヒュッゲ
ベッドに入ってからは、キスをしたり抱き合いつつも、橘が先に眠ってしまった。
嬉しいような、残念なような。
橘に布団をかけ直す。
本当に健康が心配だった。
極力、手料理を振る舞うようにはしているが、慢性的な睡眠不足はどうにもならない。
橘に何をしてあげたらいいんだろうか……。
那央は橘の寝顔を見て考えていた。
―――――――――――――
橘は、バーでバイトをしていた。
簡単なお酒やおつまみを作っている。
橘は聞き上手なこともあり、男性からも女性からも人気で、橘が出る日に合わせてくるお客さんもいる。
最近は、マスターから他のお店のヘルプを頼まれて、そちらに行くようになっていた。
『BARヒュッゲ』
マスターの弟子、坂上のお店だ。
坂上ともう一人のバーテンダー二人でやっているが、そのバーテンダーの体調不良が続いているらしい。
本物のバーテンダーには敵わないが、そつなくなんでもこなせる橘は重宝された。
ヒュッゲは、男性客が多い。
実は、坂上はゲイなのだ。
別に女性の来店を禁止しているわけではないが、自然と男性客がゆっくり飲んだり、大人の社交の場として利用する人が多くなったらしい。
最初にヘルプを打診されたときに、坂上からもちゃんと説明をされた。
「橘くん、見た目もいいし、雰囲気あるから、きっとファンが増えると思うんだよね。男性が好きなお客さんが多いから……その辺、大丈夫?」
「ええ。多分、大丈夫だと思います。ベロベロに酔わなければ。」
常連客や紹介ばかりのバーらしいので、お客さんからご馳走になるお酒も多いらしい。
坂上自身もなかなかに色気があり、坂上のほろ酔いを見たい人もいるようだ。
「無理しなくていいからね。」
変わった趣向のお店ということもあり、時給は上乗せされていた。
橘にとってはありがたかった。
橘は、昼間は研究室のサポートをしながら採用試験対策と論文の手直しをする。
夕方からは、アンプデモアかヒュッゲで働く。
時間があれば、やはり採用試験の対策だ。
幸い、家の家事は那央がやってくれた。
那央が女の子だったら、もう結婚したいくらいだ。
そんな那央には、何もしてあげられていない。
デートもそんなには行けないし、奨学金の返済もあり、高価なプレゼントも難しかった。
仮に宇宙開発技術機構に採用されたら、年単位で開発中の宇宙都市につめることもある。
家族なら一緒に居住ができるが、今のところ同性カップルは該当しない。
那央にはまだ話していないが、もしこのまま離れ離れが続くかもしれないと思うと、胸が痛かった。
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