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第41話 教育

僕は、獅堂を呼び出した。 屋敷の中庭の薔薇園のベンチに腰掛ける。 「翔優を学校に行かせるべきじゃないよ。」 「どうしてそう思うんだい?」 「教科書を読んで、勉強できる。教師の下手な授業に付き合わなくていい。彼が、教師のくだらなさを明らかにするからといって、烙印を押されてはたまらない。」 獅堂は、いかにも研究者といった丸メガネをかけている。 メガネが彼を鈍臭そうに見せるが、実際のところ顔立ちはよく整っている。 そのメガネが、堕落に誘う恋愛情事から彼を守っていた。 「まあ、勉強面はそうかもしれないけど、学校は、それだけじゃないだろう?」 「学校行事も大した価値はないよ。世の中に出たら、同世代が固まるなんて異常な事態はないんだ。学校が決めた日にち、学校が決めた内容、いじめがある学級。そんなんで、何を学ぶんだい。会社や研究が、誰かに言われたことをやって、発展してきた試しがあるか?」 「そうだけど。社会は暴力的な面もあるじゃないか。学校で色々練習をする必要もあるさ。」 「僕はね、教師という存在が一番危ない種類の人間だと思っているんだよ。自分の劣等を他人になすりつけて、なお偉そうに語る。裸の王様だ。人間性を高めるなら、雑多なコミュニティが一番健全だ。そこには、詭弁じゃなくて生き様があるからね。学校は動物園で結果が見えないのに階級が支配している異常な世界なんだよ?そこで情操教育なんてできるわけがない。」 獅堂は複雑な表情をしている。 「もう、戦後じゃないんだ。平均的な知識の習得だけなら集団での学習には一理ある。でも、今はそうじゃない。教育が国を動かしていると勘違いした結果、学校現場は崩壊して、教師もぶっ壊れてるじゃないか。誰が子どもを守るんだ?もう、親しかいないだろう。」 力説したのは翔優のためじゃなかった。 僕は、教師だった父親が嫌いだった。 資産家で実業家の多い藤波家の血筋で、平の公務員は負け組だ。 確かに僕から見ても、父が教育界で名を馳せるような大人物には見えなかった。 父は、その劣等感を乗り越えられず、僕に当たってくる。 その小心っぷりが、また僕を苛立たせた。 何年もまともに父とは話してない。 父親がわりに獅堂と話すようになった。 獅堂は僕の話を、翔優の両親に話した。 翔優は、やはり教師からバカにされ、友達からいじめられていたらしい。 本人も行きたがらないので、本当に翔優を学校に行かせないことにした。 義務教育だから黙っていても卒業はできるが、学力の証明に、国が定めた通信教育で単位をとる制度を利用することにした。 これが、僕と翔優の関わりの始まりだった。

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