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第57話 獅堂の告白

帰国してからも、度々翔優は僕にせがんできた。 椅子に座っているときに、跪いて腿に触れて上目遣いをしてきたらそういう意味だ。 面倒だったので好きなようにさせた。 彼にとって、自分の口は性器なのだ。 僕のが入ることで、俺と擬似的に性交している。 だから見た目は僕が犯してるように見えるが、実際は逆で、犯されているのは僕なのだ。 ―――――――――――― しばらくして、僕はまた坂上に同人誌を贈った。 フランス貴族と革命家の恋物語だ。 二人は幼馴染だが、身分を超えて密かに愛し合っていた。 片方が革命家の道を歩み、貴族の方は自分の身分を考えて一度は成就を諦める。 だが、二人は純愛をとって、貴族は身分を捨て、二人で生きる道をとる。 「要芽……今回のも良かったよ……。俺はハッピーエンドが好きだからさ。」 坂上が言う。 「まあ、ご都合主義だけど。」 「小説なんて、みんなそうだろ?だからこそ、ハッピーエンドであってほしいんだ。今回は、誰がモデルなの?」 「革命家は、翔優だよ。」 革命家の彼は、どん底から這い上がる。 革命の原動力である怒りと強い意志。 翔優は、革命家のように直接社会に訴えかけはしないが、演奏の中に可能性を感じた。 フランス人を喜ばせることはできた。 貴族の彼を抱くシーンの強引さも、翔優のイメージを使った。 「革命家の方なのか。意外だけど、フランスでの活躍を聞くと案外そうかもね。じゃあ、貴族の方は要芽ってこと?」 「なんで僕が翔優なんかと絡まなきゃいけないんだよ。それに、僕はその貴族のように女々しくもないし、優柔不断でもない。」 「まあね、そう描かれてるけどさ、こういう創作って、自分が出るじゃないか。」 「僕は、男色じゃないけど、書いてる。」 「殺人をしなくても、殺人事件は書ける、ってかんじ?でも、逆にフィクションだから素の自分が出ることもあるよ。」 はからずも小説を書くこと自体は楽しかった。 書くために資料を読むことは僕の人生を豊かにしたし、登場人物の思いがけない言動に自分が感動することもある。 文才があるとは思わなかったが、大学は文学部に進むことを決めた。 その後、坂上が、これまでの作品を製本してプレゼントしてくれた。 印刷所で作られて、しっかりとした本になっていた。 ある日、何の気なしに置いていたその本を、獅堂が読んでいた。 「これ、お前が書いたのか?」 「ああ。男色だけど。」 「面白かったよ。」 「それはどうも。」 「この小説ほどは面白くないんだが、俺の話を聞いてくれないか?」 獅堂に隠し子がいる…正確には、いるかもしれない、という話だった。 驚きはしなかった。 獅堂は誠実な人間だが、誰だって過ちを犯すことはある。 僕と翔優も、誤った道に入っている。 僕がもし翔優と出会ってなかったら……獅堂の告白を聞いて糾弾していただろう。 なぜ自分を信じてアキさんと付き合わなかったのか、と。 ある種、正論だが、そうできないのが人間だ。 それを、僕にわからせたのは翔優だ。 幼かった翔優は、性暴力から自分では逃げられない。 使用人気質の池上家は藤波家が絶対だ。 翔優は僕に欲情しているが、対等ではない。 僕も翔優の人生に、責任と哀れみを感じて逃げられない。 その気は無いに、男に犯されることを許している。 正論の通りなんて、生きられないのだ。 「獅堂、息子探しを手伝ってあげるよ。そして、見つかったら、小説にさせてくれ。たかが不倫だ。でも、不倫をした二人の愛が、つまらないものだとは思わないよ。」  僕は、獅堂が自分の秘密を打ち明けてくれたことが、ほのかに嬉しかった。 獅堂の信用足る人間になれていたのだと感じた。

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