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第70話 橘の新生活
橘はひとしきり那央を可愛がり、ふにゃふにゃになった那央を後ろから抱きしめた。
キスをしようがセックスをしようが、満足できなかった。
どうしてこんなに那央が好きなんだろうか。
首筋にキスをする。
「先輩……もう……ダメです……」
那央は枕を抱きしめながらギブアップした。
「わかった。このまま一緒に寝ていい? 」
「……はい……」
さすがに風邪をひかないよう、パジャマは着る。
「おやすみ、那央……」
横になった那央にキスをする。
……
…………
………………
「先輩……いつまでキスしてるんですか……」
「ごめんね、今日のキスはこれが最後かと思うと、とまらなくて……」
橘は笑って離れた。
那央が呆れているのはわかるが、幸せだった。
♢♢♢
翌日、橘が一階に降りると、藤波はすでに朝食をとっていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。よく眠れたかい? 」
「はい。おかげさまで」
「なら、良かった。僕は今からしばらくあてもなく出かけるよ。何日かは帰らない。小説の構想をねるためにね」
「わかりました。よい話ができるといいですね」
「ああ。本当に。君たちも遠慮なくここを利用してくれ。僕たちだけがここを使うより、この別荘も喜ぶだろう」
まるで、別荘が生きているみたいに言った。
「では、お言葉に甘えて……」
「橘さん、朝食を食べますか? 」
翔優が言った。
「あ、はい。手伝いますか? 」
「いえ、大丈夫です。那央さんの分はどうしますか? 」
「すぐ来るので、一緒にお願いします 」
橘は、二人分の飲み物を用意し、食べ物をテーブルに運んだ。
遅れて来た那央も、スープとデザートを運ぼうとした。
「那央さん……」
「はい?」
翔優が那央のシャツの襟と首の間に手を入れて、じっと見つめた。
「な、なんですか? 」
「……キスマークがついてますよ」
藤波はコーヒーを吹いた。
「ははは!これは傑作だね!莉音もなかなかだが、それを翔優が躊躇いなく暴くとは!すまない、ここで翔優の社会性の欠如が明るみになるとはね。僕の躾が至らなかったよ」
藤波は顔を手で覆ってまだ笑っている。
「翔優さん!那央に簡単に触らないでください! 」
橘は那央を抱きしめた。
そこが問題じゃないんだけどな……と、那央はただ恥ずかしかった。
「すみません、気になったもので……」
翔優は無表情で言った。
「僕がいない間にどうなるか、楽しみだよ」
藤波は涙を拭いながら言った。
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