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第3話 運命 ①
「ユベールを売れと言われるんですか!?」
いつもは静かな牧師様の大きな声が書斎に響いた。
「そんな事は言っておらん。『養子』に迎えたいと言っているだけだ。しかもただとは言わん。孤児院の子供達はユベールの大切な家族だ。今日ユベールを養子にすると約束すれば金貨500枚に、毎月孤児院 に銀貨100枚を送ろう。それだけあればここにいる孤児たちに着る物も食べ物も教育だってしっかりしてやれる。どうだ?悪い話ではないだろう?」
ニヤリと笑うのは僕たちが住む領土の貴族で、私利私欲の塊、ダインズ伯爵。
「しかしユベールは物ではありません!1人の人間です!」
いつも温和な牧師様が声を張り上げ、僕はビクリとした。
「断ってもいいんだぞ。だが断ればこの孤児院を取り壊すことだってできる。そうなると、ここで暮らす子ども達はまた路頭で彷徨うことになるな」
ダインズ伯爵は、僕を横目で見ながらベタついた油のような笑みを浮かべる。
「それは……」
眉間に皺を寄せ、牧師様が頭を抱えた。
優しい牧師様の気持ちは、よくわかる。
伯爵がわざわざ足を運び、なんの価値もない僕を養子に迎えようと言うなて、何かドス黒い魂胆があって、牧師様はそれから僕を守ろうとしてくださっているんだ。
でも伯爵の申し出を断れば孤児院は潰されてしまう。
僕と孤児院。
どちらを助けるかなんて、僕の中では決まっている。
「僕、行きます」
迷いはなかった。
「え!?」
牧師様は絶望の表情で頭を上げ、
「そうかそうか」
伯爵は勝ち誇ったように笑う。
「ユベール!伯爵の魂胆がわからないのに、そんなことを言ってはダメだ!どんなことをされるかわからないじゃないか!」
「孤児院が残って、ここにいるみんなが楽しく過ごせることが、僕にとっての幸せです」
大好きな神父様の手をとる。
「神父様。身寄りのない僕を今まで大切に育ててくださり、ありがとうございました。僕は本当に幸せでした」
「ユベール、そんな事は許さないよ。行ってはいけない。絶対に行ってはいけない!」
神父様は僕のことを逃がさないように握り返そうとしてくださったけれど、僕はそれより先にサッと手を引き、神父様に背を向けた。
「ダインズ伯爵様。僕の気持ちは変わりません。早く行きましょう」
「そうだな、なんでも早い方がいい。すぐに出発だ」
「ユベール!」
止めようとした牧師様を伯爵の使用人が、はがいじめをして動きを止め気配がする。
「ユベール!ユベール!」
バタンとドアを閉めても名前を呼び続ける牧師様にに、僕は何度も何度も心の中で謝る。
『ごめんなさい牧師様。何も言わずに孤児院 をさってしまって、みんなごめん…。僕の事は忘れて、幸せになってね…』
住み慣れた孤児院を出て、僕はダインズ伯爵の馬車に乗り込んだ。
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