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第4話 運命 ②

伯爵の邸宅に着くと、そのままの足で伯爵の書斎に通され、何も言われないまま出された書類にサインさせられた。  ダインズ伯爵が僕を養子に迎えたいと言い出した理由。  それはなんの前触れもなく、皇帝から第一皇子、アレキサンドロス様のところへ娘のローズ様を側室として差し出せとの命が降ったからだった。  王室となれば政略結婚が当たり前。  側室になると言うのは建前で、実質的には政治的に使われる駒で人質と同じようなもの。  そこで伯爵は娘の代わりに、孤児でそれなりに教養があって、女性のような僕を養子に迎え、アレキサンドロス様に差し出すことを決めたと聞いた。  アレキサンドロス様といえば『悪魔の子』と言われるほど残虐な方。  僕が住んでいた小さな孤児院にまで、噂は聞こえてきていた。  アレキサンドロス様の初陣は、反乱軍が帝国を攻めてきた時で、その際アレキサンドロス様が戦略を全て考え先頭だって戦い、長く続くであろう戦いを1週間で鎮圧した。その後戦いに出てもほとんど血を流さず勝利へと導いた偉大な戦いだと言われていた。  でもある時を境に、アレキサンドロス様の戦い方に惨忍と冷徹さが目立つようになってきて、その残虐さは、戦いでどれだけ敵兵の血を流すか重視したようなものとなったり、戦場に近い街や村は焼き払われ市民も巻き添いになったり、戦いに勝てば敵国の王の首を見せしめのようにさらしたとのことだった。  慈悲の心もなく、気に食わないことがあると女、子供も殺す。  そんな恐ろしい話が囁かれていた。  伯爵の陰謀に加担させられると覚悟していたけど、まさか娘の身代わりにアレキサンドロス様の側室になるため、帝都に送り込まれるとは思ってもいなかった。  だって僕は男。いくら女性に間違われるとはいえ、すぐに見破られてしまうのは目に見えている。  皇帝の第一王子、あのアレキサンドロス様に嘘をつく。すなわち帝国の命に背き、アレキサンドロス様を欺く。それは死を意味している。  これからアレキサンドロス様に会うまでの間の7日間。僕の命は、あと7日しかないということ。 とうとう、その日がやってきた。 「いいかユベール。何を聞かれても『ローズ様がアレキサンドロス様のご側室に迎えられると聞き羨ましく思い、私の一存で(・・・・・)でローズ様の代わりに殿下の元に謁見させていただきました。ダインズ家とは全く関係ないことでございます』と言うんだぞ。決して本当のことを言ってはいけない!わかったか!?」  伯爵家に着いてから、宮廷に行く日までずっと言われ続けたセリフ。 「わかっています。決してその他のことは言いません。だから孤児院のこと、よろしくお願いします」  高級な花嫁衣装を身に纏い、僕は孤児院の未来を託したダインズ伯爵に深々と頭を下げる。 「お前がヘマをしない限り、援助し続ける。だが我が家に何か不都合があれば…わかっているだろうな…」  伯爵の最後に念押しに、大きく頷いた。 「はい、絶対に失敗はしません!」  僕は絶対にみんなを守る。  固い決意と共に、誰の見送りもないまま馬車に乗り込んだ。

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