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第7話 謁見 ③

「まぁいい。それでお前は本当は誰なんだ?名前をなんと言う?」 「……」  こんなにも何度も本当の名前を聞かれるとは思っていなくて、なんと答えたらいいかわからず言葉が詰まる。 「ダインズの好意で養子になったというのは嘘だな」 「!いえ!真実でございます!本当です!本当でございます!」 「どうせそのご厚意でとやらで養子になった見返りに、『孤児院を助ける』などと言われたんじゃないのか?」  娘でも女性でもないということは、すぐに気付かれるとは思っていた。でも真相までも見破られるなんて一ミリも思っていなかった。 「どうしてそれを!!」  口走ってしまい慌てて両手で口を押さえた。 「それで『娘のローズを羨んだことにして、お前が俺のところへ行け』とでも言われたんだろう」 「!それは……」  まさか言わされたセリフさえ言い当てられ、なんと答えればいいかわからない。 「俺がそんな茶番、見抜けないとでも思ったのか…。ヒューゴ、急いでダインズ家の取り壊しにかかれ」  ダインズ家のお取り壊し!?  先ほどまでと違う恐ろしさが込み上げてくる。 「待ってください!ダインズ伯爵家がお取り壊しになれば、僕のいた孤児院は潰されてしまいます。あそこには身寄りのいない子供たちしかおらず、孤児院がなくなれば、また路頭で彷徨うことになります。ですからお願いします!処罰は僕が…僕が全て受けますので、どうかお取り壊しだけはしないでください!」  瞳に涙が浮かぶが必死にその涙を堪え、藁をもすがる思いでアレキサンドロス様をじっと見つめる。 「どんな処罰も受けるのか?」  威圧的に見下ろされ意図せず震え上がるが、ここで孤児院を救えるのは僕しかいない。 「はい!どんな処罰でも受けます」 「俺を欺いた罪で処刑台に行く羽目になってもか?」 「……、はい…」  一瞬返答が遅れたけど、それは恐怖からではなく、僕が処刑されれば子供たちが助かると思った安堵からだとすぐにわかった。 「わかった。用意させよう」 「殿下!それはいくらなんでも!この者に罪はありません」  ヒューゴ様が止めてくださるが、僕の気持ちは固まっている。 「ヒューゴ様ありがとうございます。でも僕が処罰されて、あの子たちが助かるなら本望です」 「本当だな?」   アレキサンドロス様の問いかけに、 「はい」  僕は力強く頷いた。 「そうか……」  アレキサンドロス様は何か少し考え込んでから、 「それでお前、本当の名前はなんと言う?」  先ほどした質問をもう一度する。 「僕の名前は…『ユベール・アスファーナ』と申します」  震えてばかりでは孤児院を守ることは出来ない。  今度は怯える事なく、しっかりとした口調で答えられた。 「アスファーナだと!?」  僕が答えると、アレキサンドロス様は何かに驚きヒューゴ様を見る。  するとヒューゴ様も一瞬目を見開き、そしてアレキサンドロス様を見て大きく頷く。  僕の名前に何か引っかかることがあったのか? 「あのアスファーナ家の生き残りなのか?」 「!どうしてそれを……」  僕たちの国は小さく、ほとんど知られていない国。  なのにどうしてアレキサンドロス様がご存じなの? 「乳母と逃れたと聞いたが、今、乳母はどうしてる」 「僕の乳母は……乳母は……僕を逃すために囮になって、敵兵に捕まってしまいました…」  どうしてそんな詳しいことをご存知なのかということよりも、脳裏に国が豊かで幸せだった頃の記憶と、乳母が必死の思いで僕を助けてくれた時の記憶が蘇った。 「僕はもう二度と…二度と家族を失いたくないんです…。だからお願いです、僕を処罰してください…」  我慢していた涙が頬を伝う。 「……わかった……。処罰を下そう」 「アレク様!!」  ヒューゴ様は庇うように、僕の前に立ち塞がる。 「ユベール、今日からお前は俺の側室だ。だから夫である俺が孤児院を守る。わかったか」 「!アレキサンドロス様…。ありがとうございます!ありがとうございます!」  今まであった恐怖と安堵が一度に押し寄せ、涙が滝のように流れる。 「だが、一つ約束してくれ。これからは絶対に、俺には嘘はつくな。いいな」 「はい!つきません!絶対に嘘はつきません!」  部屋に響きわたるほどの大きな声で返事をする。 「今日は疲れただろう。ヒューゴ、ユベールを部屋に案内してやれ。食事までゆっくり休むといい」  それだけ言い残し、アレキサンドロス様は部屋を後にした。  僕は緊張から解放され、その場にへなへなと座り込んだ。

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