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第16話 事故 ②
もっとよく花を見たくて、より身を乗り出した時、僕の部屋を見上げる殿下と目があった。体がビクリっとした。そのとき、
「わっ!!」
体を支えていた手が、フラワーボックスから滑り、バランスを崩してしまった体が落下する。
何か掴める突起物はないかと手足をばたつかせたが、そんな物はなく、低い木が植えられている場所に落ちた。
木がクッションになって地面にたたきつけられることはなかったけれど、枝が腕や足、頬を擦り、血が出ている。
「ユベール!」
落ちる一部始終を見ていた殿下が、僕に駆け寄る。
部屋から出てしまった!
どうしよう、叱られる!
身を縮こませて、頭を腕で隠す。
駆けてくる足音が大きくなる。
どうしよう!どうしよう!
僕のそばで足音が止まる。
「ご、ごめんなさい!」
きっと鬼の形相で睨みつけられ、すごい剣幕で怒鳴られる。
そしてもう窓も開けられず、二度と部屋の外には出してもらえない。そうに決まってる。
目の前が真っ暗になったが、ふわりと僕の体が浮き、木の茂みから抱き上げられた。
え?
目を開け顔を上げると、殿下の顔面から血の気が引き真っ青な顔で、僕の体に怪我はないかと視認している。
「勝手なことをしてしまい、も、申し訳ございません」
謝る僕の声は震えている。
「手足や頬から血が出ている。木の枝で切ったんだな。頭は?頭は打ってないか?他にどこかぶつけたところはないか?痛みはないか?」
「大丈夫です……どこも、どこも痛くありません」
だが殿下にはそんな僕の声は聞こえていないうで、一通り僕の体に怪我がないことを確認すると、僕を横抱きに抱き上げ大股で歩き出した。
「殿、下?」
抱き抱えられながら殿下の顔を見上げると、眉根を寄せ、心配そうに僕を見下ろしている。
「心配するな。俺が絶対に助ける」
そういい、宮殿に入るや否や、
「ヒューゴ、ヒューゴいないのか!?」
叫ぶ。
「何事ですか?」
宮殿の玄関からヒューゴ様が駆けてきた。
「どうされたんですか!?」
木の枝に引っかかり、破けた服に切り傷。そして僕は血相を変えた殿下に抱き抱えられている。
「ユベールが部屋の窓から落ちた。俺はユベールを部屋に連れて行く。ヒューゴは医者を呼んでこい!」
「はっ!」
状況を把握したか、ヒューゴ様は来た廊下とは反対方向のに向かって走る。
殿下とヒューゴ様のやり取りを見ていた使用人達が、何事かと顔を覗かせた。
「殿下、僕は大丈夫です」
殿下の腕から降りようとするが、
「大丈夫なわけあるか。今すぐ医者に診てもらう。それまでじっとしていろ。いいな」
口調はきついが、殿下が何かとても心配しているのがわかる。
僕が頷くと、殿下は僕の部屋に急いだ。
部屋に着きベッドに寝かされると、騒ぎを聞きつけたクロエが湯を沸かし部屋で待機していた。
「殿下、大変申し訳ございませんが、医師の診断の際、ユベール様が下着姿になるのをお許しいただけませんでしょうか?」
殿下の眉がピクリと動く。
「それはどうしてものことなのか?」
「服越しですと、怪我を見落としてしまうかもしれません」
「……。わかった。それでは俺も立ち会おう」
「それはできません」
「どうしてだ!」
殿下の視線が鋭くなる。
「いくらユベール様が殿下のご側室であっても、初夜を共にされていないかぎり、服を脱いだお姿を見ることは許されていません」
「ユベールは俺の側室だぞ。どうして夫が怪我をした妻のもとにいられないのだ!」
「そういう決まりです。どうか我慢をしてくださいませ」
クロエは殿下相手に怒鳴られようと、一歩も譲らない。
「私が責任を持ってユベール様の診断を見届けます。ですのでどうかお許しください」
クロエが深々と頭を下げると、
「殿下、どうかお気を落ち着かせください」
ヒューゴ様が医師を連れてきた。
「これは殿下がどう言われても、仕方のない決まりなのです。どうぞ隣の部屋でお待ちください」
クロエは恐れず殿下から目を逸らさず言う。
いつもは誰の意見も聞かなさそうなのに、「チッ」と舌打ちし、殿下は部屋から出て行った。
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