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第15話 事故 ①

「ユベール様、何か召し上がりたいものはございませんか?」  今日もほとんど食べられなかった夕食を、クロエが下げてくれる。 「今日もこんなに残してしまって、気を使わせてしまって、ごめんね。でも本当に何も食べられそうにないんだ」  あの日以来、僕は食べようと思っても食べ物が喉を通らない。それでも食べ物を飲み込もうとすると、吐いてしまう。  僕もいつかは、あの不審者みたいに……。  どうしても、不審者が床に倒れ絶命した姿が目に焼き付いてしまって、忘れられない。  窓の外を見ると、まるで絵に描かれたような左右均等で美しい庭が見え、遠くにはガゼボらしい建物や噴水、薔薇のアーチも見えた。  見えるけど、僕は決してそこにはいけない。 「ごめんねクロエ、一人にさせて」 「はい。何か御用の時はいつでお知らせください」  クロエが頭を下げて部屋から出て行く音がした。  僕の部屋は三階で、真下には膝だけぐらいまでしかない低い木が植えられている。  窓の外にある出っ張りであるフラワーボックスに、小鳥が飛んできた。 「おいで」  僕が窓を開けると小鳥が僕に近づいて来る。  僕が掌にちぎったパンを乗せると、小鳥はパンを突く。  僕にできた唯一の友達。 「君は外の世界を飛び回れる自由な小鳥。僕は部屋から出られない籠の中の鳥。君がもし言葉が話せたら外の世界のこと、教えてくれる?」  語りかけると、小鳥はパンから顔をあげてピーっと鳴く。 「君は優しいね。さぁ、もっとお食べ」  小鳥がパンを突いている姿を見ていると、その視線の先に殿下の姿があった。  何をされているんだろう?  部屋の中からだけではよく見えない。窓から身を乗り出して見ると、殿下は青い花を摘んでいる。  その花は見覚えがある。あの花はたしか……僕の部屋の花瓶によくいけられている花?

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