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第20話 決意 ①
殿下と謁見してから3ヶ月がたち、園庭で咲く花々の種類がガラッと変わってきた。
あの事故から1ヶ月ほどたち、だんだんと窓から園庭を見られるようになってきた。
クロエがいう表面上だけの殿下じゃなくて、本当の殿下ってどういう意味なんだろう?
殿下を暗闇から救い出すって、どういう意味なんだろう?
言葉の意味がわからず、あれからずっと引っ掛かっている。
僕と殿下はあの日以来、直接は顔を合わせていない。
でもこの間、僕の部屋の窓から殿下が園庭で花を摘む姿を見た。
丁寧に丁寧に花を花を選び摘んでいく。
一体誰に渡すんだろう……。
あんなにじっくりと花を選ばれてたぐらいだから、きっと殿下の大切な方なんだろう。
僕は殿下のことを知りたいと思う。
謁見室で初めてあった時の冷たい殿下。
不審者と出会してしまった時に見せた、怒りに満ちた殿下。
僕が部屋から落ちてしまった時に、僕を助けてくれたお優しい殿下。
僕は殿下と会うたびに、新しい殿下と出会う。
殿下は怖い。怖いはずなのに、もっと知りたいとどこか惹かれてしまう。
だから僕は、僕のまだ知らない殿下にあってみたいんだ。
「おはようございます、ユベール様。新しいお花をお届けに参りました」
いつものようにクロエが部屋に飾る花を持ってきてくれる。
「いつもありがとう」
クロエが花を花瓶に生けてくれ、淡いピンク色の花から甘い香りがかおる。
園庭にはこんな花々の香りがしているんだろうなと思うと、外に出てみたい。
でも殿下との約束があって、僕は外には出ない。
外に出てみたいけれど、出ない 。
クロエが毎日持ってきてくれる花で、僕は十分なんだ。
「クロエ、毎日花を摘んで来てくれて、ありがとう」
もう一度深く花の香を嗅ぐ。
「毎日お部屋に飾っているお花は、私が摘んだものじゃないんですよ」
「え?じゃあ誰なの?」
こんな僕のために毎日きれいな花を摘んでくれる人なんて、クロエしか思いつかない。
「言いたいのですが、それは秘密です」
クロエは口の前に人差し指をあてがい『シー』とジェスチャーをする。
「それよりユベール様、今日は殿下はヒューゴ様とは別行動で、夕方まで城を出られます。その間、園庭には出てみませんか?」
「え!?」
考えてもしていなかったクロエの発言。
一瞬「行きたい!」といいそうになったけれど、慌てて口をつぐんだ。
「そ、そんなのダメだよ。殿下からお許しをもらっていないうえに、殿下がいない間に園庭には出歩くなんて、もってのほかだよ」
「いろいろなことを考えると、普通ならそうですよね。でも今日は殿下もいらっしゃらないので、黙っていたら大丈夫ですよ」
周りに僕しかいないのに周りの様子を伺い、小声で話す。
「それにヒューゴ様に護衛を頼んでいますので、危ないめにもあいません」
そういいながら、クロエは廊下にいたであろうヒューゴ様を部屋の中に引っ張り入れた。
「ね、ヒューゴ様、いいですよね」
満面の笑みを浮かべながら、クロエがヒューゴ様を見上げる。
「……。今回だけだぞ」
ヒューゴ様は大きなため息をつく。
「ほら、最強の護衛がつくのです。今が好機です!それにアフタヌーンセットもご用意しています。花々に囲まれながらのティータイム。素敵ですよ。ね、ユベール様、いきましょうって」
クロエが僕の両手を掴み、ブンブンと上下に振る。
行きたい。でも本当にいいのかな?
でもまた誰かに迷惑をかけたりしないかな……?
いつも冷静で的確な判断をされるヒューゴ様の様子が知りたくて、ちらりとヒューゴ様を見る。
「私も以前からユベール様には園庭で、季節を感じて欲しいと思っていたんです。私が護衛いたしますので、ご安心ください」
あのヒューゴ様がいってくださっている。
「本当に行ってもいいんですか?」
「ええ、もちろん」
ヒューゴ様がいうと、
「そうと決まれば出発です!」
僕はクロエに手を引かれながらも、閉ざされ続けていた部屋のドアを開けた。
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